坂本龍一を聴く@札幌キタラ

小川のせせらぎに虫の声が重なる静寂の暗闇のなかで、まるで外科医のように坂本龍一はいきなりピアノの内蔵に両手を差し入れ、非常に繊細な手つきで直にピアノ線に触れながら、ピアノの産声のような瑞々しい音を響かせた。「宇宙の音みたい」と隣の人はつぶやいた。それはいったんは死にかけたピアノを蘇らせようとする行為のようにも感じられた。その後、Tangoをはじめ私にとってはとても懐かしい数曲をふくめて非常に多彩な内容のプログラムがスプリング・エフェメラルの如く終了したとき、これはピアノが身体の一部と化した音楽家自身の生と死をもっとも深いテーマに据えたこの上なく過激なピアノ・コンサートだったような気がした。


一曲だけ写真撮影が許可された。客席はフラッシュが点滅する蛍の森と化した。


楽屋では、ル・クレジオのことや森作りのことを話した。

坂本龍一にあっては、すべてが音楽に流れ込み、音楽がすべてに通じているんだな、と改めて実感した。