まるで墓のような揺籃のような

遠くからでも思わず目をみはる不思議な姿をした桜の樹がある。

かつての大樹の姿を想像させる直径70〜80センチの太い主幹は途中で切断され朽ちている。

それはまるで内蔵や骨が剥き出しになったかのような無惨な姿を晒している。そこから曲がった腕のように伸びた太い枝も途中で切断され朽ちている。苦しそうに腕を差し上げる人間の姿を連想させる。朽ちたから切断されたのか、切断されて朽ちたのか、どちらかは分からない。その切断され朽ちた主幹と太い枝のあちらこちらから新しい細い枝が勢い良く伸びている。主幹の根元からも新しい細い枝が勢い良く伸びている。

いったんは死んだ桜の大樹がそのまま墓になると同時にそこから新しい芽が出て再び育つ揺籃にもなっているように見える。無惨に見えた姿が神々しく見えてくる。

枝に結んだ使途不明の古い縄の切れ端が二箇所に残っている。根元の周囲にはクロッカスとフクジュソウが植えられている。まるで献花のように見える。朽ちる前の、切断される前の姿を想像する。今年の花はまだまだ。