パンク余話:「甘い蜜の罠、高速道路料金値下げ」

音楽の話ではなく、車のタイヤがパンクした話です。

これは雪国ではありふれた長靴の滑り止め用のスパイクです。なぜか、これが自家用車の右後輪にぶっすりと突き刺さり、タイヤはぺしゃんこになっていました。結局、タイヤが裂けていたために、修理では済まず、タイヤを丸ごと一本交換するはめになりました。痛い! しかし、転んでもただでは起きない私は、修理のために立ち寄ったガソリンスタンドの待合室に置かれていた新聞と雑誌を片っ端から読んだ甲斐があって、ためになる記事に出会いました。

ボロボロになった『週刊新潮*1 の2009年3月19日号をパラパラ捲っていたときのことです。櫻井よしこの連載コラム「日本ルネッサンス」が目にとまりました。遅ればせながら、「第354回 甘い蜜の罠、高速道路料金値下げ」と題されたコラムを読んで、かねがね直観的にETCなんか付けるもんかと思っていた私は、ETCや高速道路料金値下げにまつわる頭の中のモヤモヤがスッキリしたのでした。同じ記事を彼女のブログで読むことができます。


櫻井さんは、高速料金値下げがいかに誤った政策であるかという議論を、明確に、説得力をもって、展開しています。しかも、それに代わって優先されるべき政策として「ガソリンの暫定税率引き下げ」が実施された場合の瞠目すべき実効性についても言及しています。それらの根拠は主に、宮川公男(一橋大学名誉教授、統計研究会理事長)、緒方弘道(有料道路研究センター代表)、そして片桐幸雄(元道路関係四公団民営化推進委員会事務局次長)を中心メンバーとする、3月5日に創設された「高速道路問題を考える会」の研究成果に基づいています。

それによれば、政府案の高速料金値下げは「休日に、高速道路を、普通車で走り、しかもETCを使用するという4条件を満たす人」に限って短期的に恩恵を受けるだけであり、しかも、値下げに必要な年間5000億円の財源は、結局は膨大なツケ(税金)として国民に回されることになります。それに比べて、「ガソリンの暫定税率の引き下げ」を行えば、「ガソリンを使う人、業界、すべてが潤い、それによって国民負担は兆単位で軽減される」ことになるにもかかわらず、です。

では、なぜそんな政策がまかり通るかというと、その原因は小泉・猪瀬型道路改革にまで遡ります。そもそも道路公団の民営化とは名ばかりの民営化で、実際には旧公団時代となにも変わらないんですね。その実態は「上下分離方式」と言われる、政府のいいなりになる国土交通省道路局そのものである「日本高速道路保有・債務返済機構」(略して「機構」)が意思決定のトップに据えらたものにほかなりません。櫻井さんはこう断言します。

道路改革をなし遂げたとして高い評価を受けた小泉首相も、民営化推進委員会委員の猪瀬直樹氏も、狡猾に国民世論を欺いたのである。

その背景には、国土交通省道路局に、これまで流れ込んだ道路整備特別会計の約6兆2000億円もの巨大な利権を手放したくない道路官僚、道路族の存在があります。彼等の既得権益を守るための「上下分離方式」だったわけです。これを撤廃しないかぎり、まともな民営化などありえないというのが「高速道路問題を考える会」と櫻井さんの主張です。もっともだと思います。

「4条件を満たす人」が高速料金値下げという小さな甘い蜜を無邪気に吸うことは、道路官僚、道路族が巨大な甘い蜜を吸いつづけることを黙認し、なおかつ小さな蜜を吸わない人も含めた国民が5000億円のツケを払わされることを甘受することを意味するわけです。あちゃー!

*1:ちなみに、『週刊新潮』といえば、『世界』5月号で佐野眞一が編集者の劣化も極まった!と呆れていたことが想起される。