暴力


 http://tillmans.co.uk/


写真集『The Americans』で有名な写真家ロバート・フランクRobert Frank, 1924–)を特集したCoyote No.35にドイツ・ラムシェイド生まれのアーティスト、ヴォルフガング・ティルマンスWolfgang Tillmans, 1968–)による「Pictured in America & Pictured of Americans」と題した写真アンソロジーが掲載されている。「2009年現在のアメリカを外部からの視線と独自の表現をもって伝えてもらいたい」という編集部からの呼びかけに応えたものである。それに添えられた短文が彼とアメリカとの関係を非常に明晰に語っていて興味深かった。ニューヨークに一年以上住んだ経験もあるティルマンスアメリカに対して抱いた実感を三つ挙げている。一番目は公然たる「消費主義」、二番目は彼自身を含めたヨーロッパ人とアメリカ人との決定的な違い、そして特に三番目に挙げた内容は非常に示唆に富むものだった。

 さらに、1990年代から今に至るまで抱いている3つめの実感に触れてもいいかもしれない。それはアメリカが、軍隊、メディアの伝える暴力、死刑や銃保持を支持する大多数の人々といったものを通じて自国を定義している国だということだ。そういう国はアメリカだけじゃないとはいえ、国民のどれだけ多くが、この国の日常のあらゆる場面にあらゆる形で存在する暴力を、表立って支持し、あるいは少なくとも黙認していることか。僕の目にそれは、嘆かわしい現実として映る。(153頁)

死に条件づけられた存在としての人間という以前に、殺人に直結する暴力に条件づけられた存在としての人間たちからなる寒々しくもおぞましい「顔」あるいは「アイデンティティ」を持たざるをない国家アメリカというわけだ。一見平和で何気ない光景にさえそのような暴力の影をヒヤリとするタッチで表現した印象的な写真アンソロジーだった。