システムトレード、成長物語のその後

2年生の柳本君が病気治療のため休学することになった。一日も早い恢復を祈るのみである。同じく2年生の佐々木君によるシステムトレードの概要説明を中心とする報告があった。そもそも投資家とは社会的にいかなる意味をもつ存在であり、また、投資家になる(である)ことは己の人生全般の設計においてどう位置づけられるのか、をめぐって、かなりプライベートな領域に立ち入った話をする。

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3年生の井戸君による森絵都『カラフル』(1997)を題材にした二つの世界観の関係をめぐる報告があった。『カラフル』は、井戸君の説明によれば、仏教的な輪廻観とキリスト教的な天使観を合成した「世界」設定の中で、自殺=罪を犯し、生前の記憶(マコトの人格と人生)が失われた魂(ぼく)が、ある偶然(チャンス)から、元の肉体に宿り、あらたに記憶を構成していく中で、生前の記憶がすこしずつ甦り、結局は生前の記憶が新たな記憶の中に統合され、新しくよりたくましい人格として新しい人生を歩み始めるという成長物語である。即自存在的な幼く脆弱な自我から対他関係的な大人のたくましい自我への脱皮の物語とも言えよう。井戸君は、他者を傍観し社会から撤退しがちな主体から、他者に働きかけ、社会を変えるような主体への成長や脱皮の物語を自覚的に生きることの必要性を主張した。それは、しかしながら、90年代には一定のリアリティを持ち得た物語だったかもしれないが、00年代も終えようとしている現在においては、成長、脱皮したその後の物語こそが問題にされるべきだという意見が多く出された。