Hさんちのクリ(栗, Japanese Chestnut, Castanea crenata)の花。2009年7月11日撮影。
Hさんちのクリ(栗, Japanese Chestnut, Castanea crenata)の実。2009年8月24日撮影。
好きな樹だった。もうあの花も実も見ることができない。
今朝、個人的にイイなあと思っていたHさんちの庭の栗の樹がなくなっていることに気づいてちょっとショックだった。昨日も家の前を通り過ぎたが、そのときには気づかなかった。いや、気づいたはずだが、それと同時にその家の屋根の上で雪下ろしするおじいさんの姿が目に飛び込んできて、そちらの方に注意が百パーセント向いてしまったために、完全に忘れたのだった。というのも、見るからに危なっかしい様子で、落ちるのではないかとハラハラしたからだった。おじいさんとは初対面だったが、思わず「おとうさん、危ないですよ、もう止めたほうがいいですよ」と声をかけていた。もちろん、おじいさんは私の言うことなんてきかない。「大丈夫だ」とおじいさんは左手で窓枠につかまり、危ういバランスを取りながら、柄の長いポリカーボネイト製の軽量の雪はねを右手で押したり引いたりしながら、わずかに残った雪を少しずつ降ろし続けた。おじいさんの家は二階建てで、おじいさんがいるそこは一階部分が迫り出した三角屋根の上である。滑りそうなトタン葺きの屋根。おじいさんの足元はおぼつかない。一階とは言え、落ちたら骨折は免れまい。下手をしたら、打ち所が悪かったら、とよくない想像が頭のなかを巡る。「せめて、命綱を」とか「そのくらいの雪なら今日中に解けて落ちますよ」などと説得を続けたが、「雪の上には乗らんから、大丈夫だ」と言っておじいさんは私の説得に応じようとはしなかった。その場を立ち去ることができずに、なす術もなくおじいさんの雪下ろしをただ見守った。しかし、間もなくおじいさんは私の説得とは関係なく、これ以上は危険だという判断を自ら下した様子で、まだ雪は残っていたが、途中で作業を止めて窓から家の中に入っていった。やれやれ。ホッとしてその場を立ち去りながら、写真を撮ることなど思いも寄らなかったことに気づいた。今度おじいさんに会ったときには、毎年実をいっぱいつけていた栗の樹の話でも聞こう。切らざるをえなかったんだよなあ、、。