こんな場所があればいいのに。揺るぎなく安定して、触ろうにも触れない。ほとんど神聖不可侵な、どっしりと根をおろした場所。目印となり、出発点となり、起源ともなるような場所が。
(中略)
そんな場所は存在しない。存在しないからこそ、空間は問題となり、当たり前とみなされることも、何かに同化されることも、所有されることも拒むのだ。空間とはひとつの問いかけである。ぼくは絶えず空間にしるしをつけ、指し示さなければならない。空間はけっしてぼくのものではないし、ぼくに与えられることもない。自分でつかみとらなければならないのだ。
(中略)
書くこと。それはこころを込めてなにかを拾いとどめようとすることだ。ひろがりゆく空虚からくっきりとした断片を救いだし、どこかに、わだち、なごり、あかし、あるいはしるしをいくつか残すこと。
ジョルジュ・ペレック『さまざまな空間』(塩塚秀一郎訳、水声社、2003年)198頁〜199頁
そう。この上なく複雑ですべてが宿る「断片」。