香りの記憶と記録


オオヤマレンゲ(大山蓮華, Magnolia sieboldii


大山蓮華の花芯は、ほのかに甘く軽く刺すような香りを放つ。


香りの表現は難しい。そもそも香りそのものを表す語彙は貧弱であり、味覚や触覚の表現を転用したり、よく知られている果物や花などの香りを比喩に使ったりして、何とか表している。不思議なことに、実際にかいでみれば、その香りは一生忘れないほど記憶の奥深くに留まりつづける。しかもわれわれの嗅覚は微妙な違いを明確に区別することができる。もちろん、それを言葉で表現し記録し共有できるようになるには、特別の訓練が要る。調香師やワインのソムリエは、下のような「香りのエッセンス」でトレーニングするらしい。


Le Nez du Vin
フランスの著名なワイン鑑定家ジャン・ルノワール氏が研究開発したワインの複雑なブーケ(香り)をかぎわけるトレーニング用、香りのエッセンス。


Winaroma
日本の食品香料メーカーが開発したワインの香りを構成していると考えられている「花」「フルーツ」「木の実」「キノコ類」「スパイス」 「ハーブ類」などの香りを種類別に54種をそろえた香りのエッセンス。


ちなみに、香りの表現世界には音調にならった「香調(note)」という概念がある。しかも香調を音階と結びつけて記憶する極端な場合があるらしい。それによれば、白檀の香りは「ド」、クレマチスは「レ」、そしてアヤメは「ミ」。個人的には、オオヤマレンゲの香調を音階で表現できるようになるとはとても思えない。


参照