一本の木:奄美自由大学体験記11

アマミからサッポロに帰ってきてから1週間が経つ。私はアマミで体験したことをサッポロでの生活と意識の底に植え付けようとしている自分に気づく。アメリカで自問自答を繰り返した、自分の「根」のありようを確かめようとするかのように、あるいは、枯れ木を蘇らそうとするかのように、アマミでたっぷりと吸い込んだ水をサッポロでの生活と意識の土壌に撒いているようでもある。

紀伊國屋さんに注文していたことをすっかり忘れていた本が今日何かの兆しとともに届いた。『暗闇のレッスン』(1992年、みすず書房)。西井一夫著。

暗闇のレッスン

暗闇のレッスン

人類の途方もない苦悩の記憶に対峙しながら、一筋の光明となるヴィジョンを西井一夫さんはつかんでいた。

一本の木が問題なのだ。世界はそこから始まる。
(「ゲルマニアの木・一本の木」p.58)

暗闇を照らす光=言葉から始まる歴史が到達した光=核が支配するより暗い暗闇、混沌のただ中で、「一本の木=生命の始源」のイメージからはじまる別の「創世記」が静かに語られる。

奄美自由大学初日夕刻、奄美民族博物館敷地内に再生された古民家を舞台に繰り広げられた、それはそれは多彩多様な声と踊りと音楽の響宴において、詩人吉増剛造さんは、参加者全員に、ブラジルからのお土産を手渡してくれた。それは「カピバラ」と呼ばれる「赤児(あかご)」のような動物の写真に添えられた小文だった。そのタイトルには、

ブラジルの木

とあった。そして、文章の最後には驚くべき連繋があった。

カピバラも、また、静かな、ブラジルの木だ。

震撼させられた。