チベット・ゴング Peter Kubelka:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、65日目。


Day 65: Jonas Mekas

Tuesday March. 6th, 2007
11 min. 30 sec.

Peter Kubelka
plays a Tibetan
gong
.

ピーター・クーベルカ
チベット・ゴング(銅鑼、ドラ、どら)を
演奏する。

1月15日1月26日にも登場した映像作家ピーター・クーベルカが光沢のある大きくて立派なチベット・ゴングの演奏を披露する。確かに演奏である。単純に鳴らすのではない。最初は軽いタッチで小刻みにバチで触れるかのよう。が、何も聞こえない。しばらくすると、次第に空気全体を深いところから震わせる「宇宙」を連想させる不思議な複雑な音が聞こえ始め、だんだん大きくなる。大きく円を描き始めたバチのビートは激しくなり、クライマックスを迎える。少しずつバチの動きは一カ所に収束しながら穏やかになり、このまま終わるかとおもいきや、今度は直線的に往復しながらバチのビートが激しくなり、別種の音のクライマックスを迎える。そして再び少しずつ少しずつバチの動きは一カ所に収束し穏やかになり、クーベルカが打つのを止める。何も聞こえなくなる。が、クーベルカは耳を近づけたまましばらく動かない。彼には聞こえているのだろう。そして最後に手を軽く触れてゴングの振動を完全に止める。「どうだい?」メカスを始め、一同は言葉にならない感動を味わっているのが伝わって来る。クーベルカは言葉を継ぐ。「これは台所用品の鍋から発展したんだよ。」「何から出来てるんだい?」とメカス。「ブロンズだよ。」「ブロンズか。」「料理用の鍋が音楽用のゴングになったんだ。」

料理と音楽、鍋と鐘の間の失われた繋がりが垣間見え、瞑想を誘うのにこれほどふさわしい音響はないと思わせられる。一昨日瞑想的なミニマル・ミュージックの巨匠ラ=モンテ・ヤング(LaMonte Young)の「音に入る」という表現に言及したが、このチベット・ゴングの演奏では、全身の細胞が複雑な音の波動に震えるような感覚を覚える。音の電子レンジみたい。他方、鍋にも鐘にも共通する「器」という形がもつ思想、おそらくデリダが拘ったプラトンの「コーラ」にもつながる思想への道筋も垣間見える。

ちなみに、クーベルカが演奏しているチベット・ゴングの直径は80cmくらいはあるように見える。通販で入手できるのは、かなり小さいブロンズ製の直径30cmほどの物で値段は$134.63だった。でもこの大きさじゃ、あんな音はでないよな。あの音響を生で体験してみたいものだ。

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チベットといえば、独立運動チベット仏教密教、そしてダライ・ラマ14世だが、広く一般的なチベット関連情報はここが便利。