ヴィレンドルフのヴィーナス Peter Kubelka:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、68日目。


Day 68: Jonas Mekas


Friday March. 9th, 2007
8 min. 05 sec.

Peter Kubelka
takes us to Willendorf,
Austria, where the
prehistorical
Venus sculpture
was
discovered

ペーター・クーベルカ
われわれをオーストリアのヴィレンドルフに
連れて行く。
そこは先史時代のヴィーナスの彫刻
発見された場所である

英語版Wikipediaの項目"Venus of Willendorf"をそっくり和訳した日本語版ウィキペディアの項目「ヴィレンドルフのヴィーナス」によれば、

ヴィレンドルフのヴィーナス (英語:Venus of Willendorf 独逸語:Venus von Willendorf ヴェヌス・フォン・ヴィレンドルフ) は、ヴィレンドルフの女としても知られるが、女性の姿をかたどった、高さ 11.1cm (4-3/8インチ) のスティアトパイグス型小像である。1908年に、オーストリアのヴィレンドルフ近くの旧石器時代の遺跡で、考古学者ヨーゼフ・ソンバティ? [Josef Szombathy] が発見した。像は、その地方では産出しないウーライト(魚卵状石灰岩)を彫刻して造られており、また代赭石で染められていた。
1990年時点における、遺跡の層序に関する再分析においては、22,000年から24,000年前に彫刻されたと推定された。小像の起源や、制作方法、文化的意味などについては、ほとんど知られていない。

しかし、怖るべき感受性の持ち主(一昨日も登場した)クーベルカは、考古学者たちが気づかないヴィレンドルフのなだらかな小高い山の景観に注目するように、メカス一行を促す。発見されたヴィーナスだけが問題ではなく、この山全体がまさに「女性」なんだ。神聖な場所なんだ。全体が、すべてが神秘的、恍惚とさせる雰囲気に満ちているのが分かるだろう。

クーベルカは自ら車を運転してメカス一行をヴィレンドルフまで案内する道すがら、ヴィレンドルフのヴィーナスが発見された一帯の景観の「女性的特徴」を得々と解説する。ヴィレンドルフに到着して下車してからも、発見された場所や4万年前から1万5千年前までの人間の活動が見てとれる地層が観察できる場所で、地質学的、考古学的な説明も一通りはする。「この一帯は少なくても4万年前から文化の中心だったんだよ。」しかし、彼の関心の的は学問的関心を超えたビジョンにある。「この山の形が女性のコンセプトなのは明らかだよね。」メカスのカメラはその山をとらえつづける。クーベルカは掌に載るサイズのヴィーナス像の一つをカメラの前に置き、山の形と比べて見るように促す。「どうだい、同じだろう。専門家はこういうことに気づかないんだ。非常にはっきりしてるよね。」カメラに背を向けたまま、しばらくの間クーベルカは黙って山を眺めている。「ここは文明の前哨地点outpostなんだ。」

最後にメカスがしみじみと言う。「祝福しなくちゃね、ここを信じていたマリヤ・ギンブタスを。」「そう、そうだとも。まったくその通り。彼女は偉大な科学者だったよ。」

マリヤ・ギンブタス(Marija Gimbutas, 1921-1994)はメカスと同郷のリトアニア出身のアメリカの考古学者で、日本でも邦訳書『古ヨーロッパの神々』(言叢社 1998)で知られる。

古ヨーロッパの神々

古ヨーロッパの神々

Goddesses and Gods of Old Europe, 6500-3500 B.C.: Myths, and Cult Images

Goddesses and Gods of Old Europe, 6500-3500 B.C.: Myths, and Cult Images

ギンブタス女史の研究の広範な意義ついては、すでに松岡正剛さんがここに分かっていることとまだ分かっていないことを非常に手際よくまとめている。「路地論」にも通じるような、ギリシア神話地母神のルーツと考えられる「古ヨーロッパ」における母権的世界、「大女神」が君臨した文化の輪郭を多面的に浮き彫りにしたギンブタスの仕事は非常に興味深い。またケルト文化研究や縄文文化研究との関連、そして男根像牡牛信仰「イヤー・ゴッド」との関係、などの興味も尽きない。

***
今日のフィルムの文脈からは外れるが、ジョナス・メカスクーベルカと飯村隆彦について書いているレビューの日本語訳が飯村隆彦の公式サイトのここhttp://www.takaiimura.com/review/MekasJ.htmlで読める。