ジョナス・メカスによる365日映画、4月、111日目。
Day 111: Jonas Mekas
Saturday April. 21st, 2007
7 min. 57 sec.
Pola Chapelle's
tribute to the
Hoboken Trio at
the Danny's Skylight
Room Cabaret.
ポーラ・チャペルの
ホーボーケン・トリオに
捧げる歌、
ダニーズ・スカイライト・
ルーム・キャバレーにて。
4月2日にメカスの思い出の中に登場したポーラ・チャペルに関しては生死を含めて不明な点だらけだった。分かっていたことは、メカスの弟アドルファス・メカスの妻で、短編映画を何本も撮っていることだけだった。今日のフィルムでポーラは歌手であることが分かった。そして、4月2日のフィルムで何度かクロースアップされていたので、もしや、とは思ったのだが確証がつかめなかった年老いた婦人がやはりポーラだった。ポーラ・チャペルのこんな音楽アルバムが存在する。
「出版不可能なものの出版社」を標榜するHALLELUJAH EDITIONSからしか入手できない。そのPola Chapelle Sings Italian Folksongsには歌手としてのポーラ・チャペルの経歴の一部が書かれている。ウェブ上では唯一の情報源である。それによれば、ポーラは若い頃に、イタリアのクラブやキャバレーで歌う仕事をしながら、まるで音楽民俗学者のようにして、イタリア各地に伝承される民謡を採集して回った。テープレコーダーなどの録音機材はなく、歌詞を手早く書きとめたり、歌うことでとにかく記憶したらしい。折しも、60年代の世界的なフォーク・ミュージックのブームの中でPrestige Internationalのプロデューサ、ケニー・ゴールドシュタインの目に留まり、一枚のLPを出す幸運に恵まれた。それはイタリア全地域とその方言を代表するフォークソング集になった。上のアルバムはそのデジタル・リマスターCDである。*1
しかしながら、ポーラ・チャペルその人に関しては、それ以上の素性は不明である。「若きイタリア人のカフェ・シンガー」という記述から、イタリア人であることは間違いないようだが、いつどうしてアメリカに渡り、ジョナス・メカスの弟、アドルファスとどのようにして出会うことになったのかは分からない。4月2日のフィルムで強く感じさせられたように、若い頃メカスはポーラに強く惹かれていたはずだ。今日のフィルムからは今でも惹かれ続けていることを強く感じる。終始ポーラの姿だけがワンショットで捉えられている。ポーラ・チャペルの「肖像」のような今日のフィルムだ。
フィルムの中で、ポーラは、これまたかなり素性の不明な歌手の兄弟のホーボーケン・トリオの思い出に捧げる歌を歌うのだが、このホーボーケン・トリオに関しても、ネット上では、HALLELUJAH EDITIONSのこのページHappy Birthday Mama, by the Hoboken Trioにしか情報が存在しない。ポーラが冗談まじりに話しているように、ホーボーケン・トリオはなぜか二人の兄弟、ピート(Pete Galastro)とシビー(Sibby Galastro)だけである。ホーボーケンという風変わりな名前は、彼らの出身地、ニュージャージー州の町の名前からとられている。イタリア系移民の多いホーボーケン(Hoboken, New Jersey)はハドソン川の西側の岸辺に位置する町である。マンハッタンのちょうど向かい側である。ピートとシビーはマンハッタンの鉛筆工場で働きながら、町や教会のパーティーでホーボーケン・トリオとして歌っていた。当時(おそらく60年代)ホーボーケンの住民で彼らとその歌を知らない者はいなかったという。ホーボーケン・トリオ、またの名をザ・ボーイズ(The Boys)の歌に関しては「都会のカントリー・ミュージック」と特徴づけられている。また彼らの音楽活動の特徴は、とにかく呼ばれればどこにでも行って歌うというスタイルだった。労働組合の、教会の、結婚式のパーティー等。*2
ポーラ・チャペルは聴衆に向かって、最後のアンコール曲"Deep Down …"を「これでお別れね」と紹介してから、ホーボーケン・トリオのピートとシビーにどこかのレストランで会った思い出を話す。ポーラとホーボーケン・トリオはイタリアつながりということもあっただろうが、本質的には生活に深く根を下ろした音楽、歌に対する愛情という共通点があるに違いない。歌の後半、サビの部分でポーラはようやくカメラの方を向き、メカスに向かって歌った。
*1:ポーラ・チャペルの歌のサンプルはこちらhttp://www.hallelujaheditions.com/mp3/Pola.mp3で聴ける。
*2:ホーボーケン・トリオの歌声はこちらhttp://www.hallelujaheditions.com/mp3/Hoboken.mp3で聴ける。