Past in the Present, Tonino de Bernardi:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、5月、141日目。


Day 141: Jonas Mekas
Monday May 21st, 2007
14 min. 22 sec.

In Torino, Italy,
I meet Tonino de
Bernardi
. We talk
about Past in the
Present --

イタリア、トリノ

トニーノ・デ・ベルナルディ

会う。
現在形の過去について語り合う。

冒頭、"Tonino de Bernardi / Torino Spring 1993"とテロップが入る。

陽気なジャマイカン・メロディーの歌が流れる。トリノ市内の朝の市場。曇り空。かなり年季の入った小型のワンボックスカーの後部座席の引きドアを開けて降りてきた痩せたトニーノ。前のドアのカギが壊れているという。助手席に無造作に置いてある買ったばかりだという赤と黄色の花を見せる。「何て言う花?」とメカス。「プリムラ。」「プリムラは、プリーモ、最初の花って意味だよ。」

"Tonino de Bernardi / Torino Spring 2007"とテロップが入る。
14歳年をとって、顔がちょっと丸くなったトニーノ。「過去現前説Past Present」を熱く語るトニーノ。「過去、現在、未来という区別は約束事に過ぎないんだ。すべては現在さ。」確かに、過去は想起されることで過去と知られるが、想起においていつも現在である。「過去に生きることはできないよ。現在にしか生きられない。」

再び、"Tonino de Bernardi / Torino Spring 1993"とテロップが入る。
車で山道を行く。着いたのは人里離れた山間の農家に見える。トラクターがある。鶏の声が聞こえる。犬の吠える声も聞こえる。放し飼いの鶏がいる。「ジョナス、チーズだ、チーズ」とトニーノの声。

家の中でチーズの塊を薄くスライスする見知らぬ若い男。一枚受け取るメカスの左手。「んー」と美味そうな声が聞こえる。棚に直径30cmくらい、厚さ10cmくらいのチーズの塊がならんでいる。壁際の机に一冊の本が見える。メカスがそれを指差し、カメラを誰かに渡して、その本に近づき、手に取って、カメラの方に表紙を向ける。カメラはクローズアップする。"Dante Alighieri / La Divina Commedia"と読める。ダンテ・アリギエーリの『神曲』*1メカスもまだ若い。

倉庫の中、テーブルの上に大きなチーズの塊が四列かける六列ある。上面には製品のマークらしい絵模様が刻印されている。他にも、三段の棚それぞれに二列かける八列くらいある。トニーノと農家の主人らしき婦人がイタリア語でこのチーズは何とかだと話している。

戸外。積まれた藁、番犬のシェパードと戯れる見知らぬ若者、じゃれ合っている放し飼いの鶏三羽の様子がしみじみとした調子で写る。

車でどこかへ向かう。低い山が見える。その山に向かう曲がりくねった未舗装の道に入る。「サンタ・マリーア」と言うトニーノ。石造りの家に着く。婦人と黒いラブラドール犬が出迎える。「ジョナス、妻のマリエラだよ」とトニーノ。ダニエルという女性がメカスに同行している。トニーノは農家をやっているのだろうか。家は山裾の広大な土地の中に建っている。畑も見える。

扉を開け放った家の入口に猫が二匹。家の中には美しいモーツァルトピアノ曲が流れている。「あー、ムジーカ(音楽)!」とメカス。テーブルの上には食事の準備がしてある。白ワインも用意されている。メカスとダニエル、トニーノとマリエラの他にも四五人の客がいるようだ。逆光のなか、しかもメカスは客の顔を撮らない。トニーノがイタリア語で紹介している。ルベール、ベロニカ、ジュゼッペ、という名前だけが聞き取れる。

***

トニーノ・デ・ベルナルディは1937年生まれ、イタリアの前衛的、実験的映画監督兼脚本家。日本でも、2002年のイタリア映画祭で"Rosatigre"(『薔薇色のトラ』)が上映された。YouTubeに、2006年のトリノ映画祭での"Accoltellati"上映後のトニーノのスピーチTonino De Bernardi - Torino Film Festival 2006(イタリア語)がアップされている。

*1:現題は『神聖喜劇』。あくまでコメディ、聖なるコメディである。『神曲』は森鴎外の訳語が定着した。ダンテ自身は単に"Commedia"(『喜劇』)と題していた。ボッカチオが尊称としての"Divina"を冠した。『(神聖)喜劇』の方が、より深い意味合いがにじみ出てよいのにと思う。