ジョナス・メカスによる365日映画、8月、219日目。
Day 219: Jonas Mekas
Tuesday August 7th, 2007
9 min. 56 sec.
somewhere
in Austria, with
Peter, we enjoy the
gifts of summer-
you should do
the same --
オーストリアの
あるところで、ペーターと一緒に
夏の贈り物を
楽しむ。
あなたも同じことを
するといい。。
どこかのオープン・テラスで、持参したライ麦パン、チーズ、ハムなどを広げるペーター・クーベルカ。最後に「これはスウィーツ」といかにも甘そうな菓子パンを嬉しそうに披露する。テーブルを囲むのはメカスと大人になった息子のセバスチャン。最近の映像のようだ。葡萄の葉が描かれた大きめのグラスにたっぷり入った白ワインで、「昼下がりに乾杯」してから、夏の陽射しの下で、三人は気持ち良さそうに黙々と白ワインとパンとチーズとハムを味わっている。
セバスチャンが、あの木は何かと尋ねる。あれは桃だよ、とペーターは答える。カメラは桃の木々の向こう側に広がるワイン畑(Vineyard)を捉える。そうか、彼らはオーストリアのどこかのワイナリーに来ているんだと、ここで分かる。映像でははっきりとは確認できないが、そのワイン畑の一部には敢えてある種の桃の樹が植えられているようだ。案の定、ペーターは「興味深いことなんだが」と言って、桃と葡萄はお互いに風味を摂取し合うんだと解説しはじめた。何でもよく知っている人だ。「ここの桃を食べれば、葡萄の味がするし、葡萄は桃の味がするんだ」。
場面は替わり、農園主らしき見知らぬ老人がメカスたちに小ぶりの桃を持って来てくれた。ペーターの知り合いのようで、ドイツ語で話している。「じゃあ、また」と言って三人と握手して彼は立ち去った。小ぶりの桃が山盛り入った白いプラスチックのバケツが、彼らの傍に置かれている。
その一帯の空気に桃の香りが漂っているのか、メカスは何度も深呼吸して「あー」と言葉にならない気持ちよさを表わす。三人は葡萄畑に向かう。桃談義はまだ続いているようだ。メカスは桃を一個手に持ったままで、ペーターの説明は聞かずに、その香りを嗅いでは、「たまげた(amazing)」を繰り返す。「香りだけだよ」とペータ。その桃は食用ではなく、本当に香り用なのだろう。何桃だろうか。ペーターはセバスチャンに葡萄栽培に必要な陽射しや気温などについて先生のように説明を続けているが、メカスは聞いていない。
メカスたちは両側に葡萄畑が広がる細い道を行く。高圧電線の鉄塔が一瞬写る。メカスはカメラを葡萄に近づける。「農民の子」を自認するメカスにとってこういう場所は嬉しくて仕方がないようだ。「ブドウ、ブドウ・・・まだ沢山あるな・・・」。歌うような独り言が続く。丈の低い葡萄たちの傍に桃の高木が植えられた場所がある。メカスは手に持った桃をカメラの前に高く翳す。メカスたちは濃い紫色に熟したブドウの実を摘んで味見する。普通はワイン用の葡萄は生食には向かないはずだが、三人とも「んーん、んーん」と言葉にならない感想を漏らしながら、一粒一粒、次々と頬張る。桃の香が入ったよほどいい香りと味なのだろう。ぺちゃぺちゃ、くちゅくちゅと口の中で噛む音が本当に美味しそうに聞こえる。「赤は特に美味しいなあ・・・赤と白が一緒に植えられてる」とメカス。
葡萄の木が整然と並ぶ広大な畑が写る。かなり大きな畑だ。数ヘクタール。
最後にメカスはカメラを自分の顔に向けて、珍しいことに、今いる場所を複雑に訛ったドイツ語で言うが、Sではじまる地名が聞き取れない。
Wir sind in S...dorf, S...dorf.
「シュタメラスドルフ」と聞こえる。おそらくペーターの住むウィーン近郊だと思って、Sではじまりdorfで終わるそれらしい綴りを考えて、検索したら、
と判明した。シュタマースドルフ。やはりウィーン郊外の北西に位置する葡萄畑のある小さな町だ。ホイリゲ(heurige)という、オーストリア東部に見られるワイン酒場で有名な村の一つらしい。