風通しのいい孤独



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レイナルド・アレナスReynaldo Arenas, 1943–1990)は生まれ育った故国キューバでの弾圧を逃れて、米国に亡命した。しかしそこはすべてが金次第の歴史も魂もない国であると思い知らされた彼は、そんな国で魂を売り渡さずに生きるにあたって、次のような考えを記した。

...幸福というものは幸福であることのなかにあるのではなく、自分の不幸を選びうることのなかにある...
(中略)
ニューヨークに着いたときまず心に誓ったことはくたばらないこと、つぎに、誰にも屈伏しないこと、そして、平和を見いだすことだった。平和、それこそ彼の人生のほんとうの中心だった。そして、その中心は、その平和は、ひとつの言葉のなかにおさまった。誰もがはねつけようとするが、誰をも救うその素晴らしいたったひとつの言葉、それは孤独。自分以外の誰にも屈伏しない、自分以外の者のためには生きようとしない、そしてなによりも、孤独を追い払わないようにするというよりは、むしろ逆に、孤独を求め、追いかけ、宝物のように守ること。なぜなら、肝腎なのは愛情を断つことではなく、愛情を棄てたものと見なし、愛する可能性のないことを理解し、そして、そんなふうに考えていることを楽しむことなのだから。
(『ハバナへの旅』142頁〜143頁)

そして彼は自分に言い聞かせるようにこうも記した。

ぼくに一番似合った不幸を選ぶか、その不幸に慣れるかするんだ
(同書、138頁〜139頁)

こういう考えを悲観的な考えと受け取る人が多いかもしれない。たしかにやや頑な部分や鵜呑みにできない部分はあるにしても、私にはむしろ根源的に楽観的でポジティブであるとさえ感じられるところがある。同じようなことを、よく自由について考える。自由というものは自由であることのなかにあるのではなく、自分の不自由を選びうることのなかにある、と。

孤独についてもそうで、常識とは正反対に、アレナスのいう孤独は思い切り風通しのいい状態に感じられる。