空き家の廃庭

近所に主(あるじ)を失って二年経つ空き家がある。所狭しと各種の植物が植えられた庭をふくめて、その敷地を守るように13本の松と1本の白樺が囲っている。生前の主は毎日朝から夕方まで庭の手入れに勤しんでいる方だった。

この二年間、その庭には人の手がまったく入っていない。それでも毎年多くの植物が花を咲かせ、果実を実らせてきた。今この瞬間にも、梅、桜、洋梨、柊南天ヒイラギナンテン)、躑躅ツツジ)、石楠花(シャクナゲ)、木槿ムクゲ)、擬宝珠(ギボウシ)、山葡萄(ヤマブドウ)、雪晃木(セッコウボク)、薮萱草(ヤブカンゾウ)、等々の姿が次々と思い浮かぶ。

ある時、13本の松と1本の白樺に業者の剪定が入った。枝という枝は根元から切り落とされ、幹の上部も切断された。苦情が寄せられたのだろう。たしかに松と白樺が大量の枯れ葉と種子を周囲の家々に撒き散らしていた。それまで樹々に隠れ、薄暗かった庭は外部に半ば剥き出しになり、痛々しい姿の13本の松と1本の白樺の間を通して中には明るい陽が射していた。