いったん融けた雪が凍って路面がツルツルになった道を久しぶりに歩く。足を取られまいと無意識のうちにかなり複雑で大量の情報処理をして体勢と体重移動を微妙に調節している脳と体を他人事のように感じる。「体が覚えている」と感じる。
そういえば、昨日の朝は緩やかな坂になっている歩道で私たちの前を行く老婦人が足を取られ尻餅をついたのだった。踏み固められてテカテカツルツルになった雪で覆われた歩道には「すこっぷくん」と呼ばれる滑り止めの砂利石が疎らに撒かれてはいたが、片足に体重をかけすぎたのだろう。その足が取られた次の瞬間には彼女の体が宙に浮き尻から落下した。彼女はすぐに立ち上がってふたたび歩き始めたが、少し行くと立ち止まり、腰のあたりに手を当てていた。「大丈夫ですか?」と声をかけながら、彼女が尻餅をついた辺りに差しかかった時、私も足を取られたが、オットット、となんとか持ちこたえたのだった。彼女は大丈夫そうだった。後で「すこっぷくん」をもっと沢山撒いておくことを約束した。