オルタッリ家のバルサミコ酢とブラックレター


スーパーに買い物に行くと、買いもしないのに、商品のラベルを見て歩く癖があります。上の写真は目にとまったヨーロッパからの輸入品のごく一部ですが、日本製品も含めて、スーパーに並ぶ商品のラベルは、百花繚乱の眺めです。もちろん、自然の造形の妙にはかないませんが、それでも様々な書体が目も眩むほどに正に色とりどりに美しくあるいは可愛らしく咲き乱れていると感じます。特に惹かれた書体があるとこっそり写真を撮ります。帰宅後、書体名や制作者を調べてみるのですが、突き止められないことが少なくありません。


上の写真の中で特に左上のイタリア製のバルサミコ酢オルタッリ(Ortalli)のブルーラベルの書体が気になりました。



ブラックレターが古臭い感じだな。いや、伝統の重みか。しかも立っているぞ。そうか、ゴシック様式か。などと独り合点しながらしばらく眺めていました。帰宅後調べてみたら、オルタッリとは、イタリア北部のロマーニャ州モデナ地方の旧家の名であることが分かりました。1899年以来、100年以上にわたって採算を度外視して高品質のバルサミコ酢醸造し続けてたきたそうです。書体に関しては、サン・マルコ(San Marco)という書体であることが分かりました。ドイツの書体デザイナー、カールゲオルグ・ヘーファー(Karlgeorg Hoefer, 1914–2000)が1991年から97年にかけて制作したものです。書体分類上は、ブラックレター(いわゆるドイツ文字、広義にはゴシック体)に入ります。一瞬、イタリア製品にはそぐわない気がしましたが、ブラックレターは、ルネサンス以前、12世紀から15世紀にかけてはヨーロッパ中で使われていた汎用的な書体ですし、イメージとしてはミラノ大聖堂などの壮麗なゴシック様式の建築(いわゆるイタリアン・ゴシック)にも通じるものなのでしょう。単に高級感を出すだけなら、ローマ碑文に由来するローマン体を使うのでしょうが、そこは、やはり、伝統の矜持と気骨をブラックレターに託したのでしょう。


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