タイポグラフィの考え方を学ぶ


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タイポグラフィデザインの現場BOOK)』(美術出版社、2008年)の頁を捲っていて、「欧文書体のルールとマナー」が目に留まった。嘉瑞工房三代目の高岡昌生氏への「デザイナーが知っておきたい欧文組版の考え方」についてのインタビューを「組版の目的を考える」、「タイポグラフィの考え方を学ぶ」、「文字にかかわる、それぞれの役割」の三つの観点から上手に整理した内容である。嘉瑞工房については以前少し調べて書いたことがある。

タイポグラフィの考え方を学ぶ」のなかで、高岡昌生氏が父、二代目の高岡重蔵氏から学んだ経験を思い出しながら語った興味深い内容が紹介されている。

親父は「ドイツの薄暗い教会の中で細い字が見えるわけがないだろう。でもイタリアは南で窓からさんさんと日が当っているから、字が細くても見えるんだよ」とか、そういう話ばかり僕にしていました。でも、それを聞いていると、なぜゴシック(ブラックレター)がドイツで生まれて、ローマン体がイタリアなのかっていうのが、多少正確でなくても、考え方として理解できる。あ〜なるほどねって思って、その知識が自分の血や肉になるわけです。「グーテンベルクが何年に活版印刷を初めて〜」みたいな話をされても、そういう知識って抜けていっちゃうでしょう?
(025頁)

これを読んだとき、朗文堂の片塩二郎氏が、同じローマン体でもイタリア生まれのボドニとフランス生まれのギャラモンの違いについて、イタリアレストランのデザインの逸話を引いて説明していたのを思い出した。イタリアレストランにギャラモンはないだろう、という話である。それについても以前書いたことがある。

ふと、どこかで小林章氏が現代では逆にそういう「考え方」に縛られすぎるのもいかがなものかという趣旨のことを書いていたことを思い出した。書体やタイポグラフィに関わる知的領域の広さ、深さを再認識すると同時に、そこを果敢に駆け抜けるフットワークの必要性を感じる。