書体

二月

ギャレス・ハーグの冒険

2012 Headline(Gareth Hague, 2009) ロンドン・オリンピックのテレビ放映でロゴマークに使われている角張ってぎこちない書体が目に入るたびに違和感を抱く。アルファベットを追う視線はかつてない抵抗を覚えると同時に、その形状にはどこか可愛らしさも感…

「奥様は魔女」のタイトルスクリーンで使われるフォントの原作者は不明

昨日の「奥様は魔女」のタイトルスクリーンで使われるフォント同定の記事に関して、知り合いの編集者のUさんから、タイトルスクリーンのフォントは「1964年のオリジナルのロゴそのもので、作者はOPアニメを制作したハンナ・バーベラ・プロダクション(Han…

オルタッリ家のバルサミコ酢とブラックレター

スーパーに買い物に行くと、買いもしないのに、商品のラベルを見て歩く癖があります。上の写真は目にとまったヨーロッパからの輸入品のごく一部ですが、日本製品も含めて、スーパーに並ぶ商品のラベルは、百花繚乱の眺めです。もちろん、自然の造形の妙には…

イタリアンレストランのロゴの書体は如何に

帰省した娘たちとピザを食べに行った。美味かった。ただその店のロゴの書体に微かにひっかかりを感じた。それはカリグラフィーの要素の強い書体だった。私のごとき素人でも、ちょっと調べてみれば、それは無償配布されているAdria DB Normalという書体である…

住所印の書体

ネットで注文した古書が全国のどこの古書店からどんな梱包で届くかいつも楽しみにしています。最近は三重県、滋賀県、富山県の古書店から届きました。多様な個性が見られます。特に住所印のデザイン、書体に目が行きます。富山の越中松井家の住所印はちょっ…

タイポグラフィの考え方を学ぶ

asin:456850337X 『タイポグラフィ(デザインの現場BOOK)』(美術出版社、2008年)の頁を捲っていて、「欧文書体のルールとマナー」が目に留まった。嘉瑞工房三代目の高岡昌生氏への「デザイナーが知っておきたい欧文組版の考え方」についてのインタビュー…

ドイツの小林さん

私が勝手に欧文書体の「師匠」と呼んでいる人がいる。小林章さん。現在ドイツでご家族と生活をともにしながら、書体設計、フォント・デザインの仕事に励んでおられる。その生活と仕事の一端に触れることができるのはブログのお陰である。 小林章のドイツ日記…

モダン・ローマン体の「遺伝子」

Bodoni*1 田中正明著『ボドニ物語』(印刷学会出版部、1998年)を読んだ。期待はずれだった。でも、なぜか、しばらく手元に置いて、ときどきぱらぱらと捲りがながら、何かを考え始めていた。なぜ期待外れだったのか。そもそも俺は何を期待していたんだ? ボ…

欧文書体当てっこクイズ The Rather Difficult Font Game

about エイプリルフールに生まれたフィンランドのカリ・パティラ(Kari Pätilä)さんの粋なサイトSay It Ain't Slowで三日前に公開されたばかりの、フォント・ゲームをやってみた。 The Rather Difficult Font Game ちなみに、上に表示されている第一問の"fa…

痩金体の消息:普遍書体はありうるか

中国の宋代の皇帝徽宗(きそう, 1082–1135)が考案した痩金体(そうきんたい)という楷書の書風がある。力強い硬い線で書かれ、キツい印象の書体である。「金属」的な印象から「痩金体」と命名されたらしい。 欲借風霜二詩帖*1 http://ja.wikipedia.org/wiki…

寄り引きの補正、私のささやかな実験

府川充男氏はタイポグラフィの技術の「いろは」を二点に要約する。 「タイポグラフィ」ということのアルファにしてオメガというのは、何をどう組み合わせるか、つまり、第一に、どういう形の文字を、つまりどういう字体・書体・書風の文字を、第二に、どのよ…

同じ「か」でも:現代の新聞書体

朝刊(朝日新聞)に目を通していて、ふと平仮名の形が気になった。よく見ると結構凝った書風であることに気づいた。「の」の払いの曲がり具合、「か」と「が」の撥ねの角度などに独特の書風を感じた。そもそも新聞で使われる書体は雑誌や本とは一線を画す、…

真性活字中毒症状?

所用でJR札幌駅に行った。 駅ビル内のデパートで飲食店の案内掲示板が目に留まった。狭い枠の中でそれぞれ工夫を凝らして個性を競っているなあ、面白いなあと思いながらしばし眺めた。ロゴを見ているだけで食べたり飲んだりした気分にちょっとなる。さすがに…

漢字は熱くてポップだ

ここまで来たら(実はどこにいるのか本人はまだよく分かっていないのだが)、避けて通るわけにはいかないなあと観念しているのが複雑な感情を抱いてしまう漢字という文字。いつの間にか私の奥深くに根付いて恐るべき力を発揮しているのが、今こうして文字を…

文字は風を運ぶ:書風という概念

府川充男氏は文字を語るに際して当たり前のように「書風」という言葉を使う。古風だなあ、と最初は違和感があったが、書体、書体と語ってきたなかで、実は私は書体と書風を混同していたことにはっきりと気づいた。府川氏によれば、文字の「形」には三つの「…

『組版原論』の組版データ

府川充男著『組版原論』(太田出版、1996年)は内容もさることながら、その本自体に注ぎ込まれた当時の組版知識・技術の最高峰、最先端が知れるという面でも大変興味深い。組版を論ずる本である以上、その本自体の組版の質も当然問われる。そのことに無自覚…

江戸文字

江戸時代に庶民が親しんでいた書体をできるかぎり知りたいと思っていた。ちょうど府川充男著『組版原論』(asin:4872332725)の第1章のはじめ「タイポグラフィーへの視線」はいわゆる「江戸文字」の話から始まっていた。「江戸文字」といっても、仔細に見れ…

築地体パラダイム

築地体三号細仮名 書体見本(大日本スクリーン「日本の活字書体名作精選」) 小宮山博史氏の解説「毛筆書道の流れをうけつぐ流麗な仮名」 築地体後期五号仮名 書体見本(大日本スクリーン「日本の活字書体名作精選」) 小宮山博史氏の解説「現在まで影響を与…

点をめぐる秘かな攻防:読点かコンマか

校正中の原稿。読点(、)がコンマ+スペース(, )に修正されている。 日本語の横書き文書では点をめぐって秘かな攻防が繰り広げられている。「句点+読点」VS.「句点+コンマ」である。そこには旧文部省VS.旧自治省という背景があったらしい。知らなかった。…

ハイフンの誤用

校正中の原稿。本来は「Jonas Mekas, 1922–」と左右スペースなして半角ダッシュを使うべきところに、左右にスペースを入れてハイフンを使っている。 欧文組版上は、人物の生年の範囲、引用した頁の範囲、時間の間、複数の人名や地名の間を表すには、左右にス…

杉浦康平『アジアの本・文字・デザイン』の書体は何?

asin:4887521960 杉浦康平編著『アジアの本・文字・デザイン 杉浦康平とアジアの仲間たちが語る』(トランスアート、2005年)を読み直しながら、この本の本文組に使用されている書体が気になり出した。ウェブ上で調べた限りでは同定できなかった。この本への…

Zapfino(1998):書体が見る夢の形

Zapfino Mac OS Xに標準搭載されているスクリプト書体 Zapfino の見本 以前から見事な造形のスクリプト(手書き風)書体だなあと感心して眺めていた Zapfino。「ツァプフィーノ」と読む。この書体がヘルマン・ツァップ(Hermann Zapf, 1918–)の設計だという…

ジャン・コクトオ『阿片』(堀口大學譯、齋藤書店、昭和21年)の欧文組

昨日のエントリー(従属欧文、ヒラギノ明朝のもうひとつの秘密)で引用した小林章氏の文章のなかに登場する「1930年代の本」、和欧混植の横組活版印刷の本の頁の美しさに心動かされて、手元にある本のなかで和欧混植の活版印刷された本をめくっていた。 数冊…

従属欧文、ヒラギノ明朝のもうひとつの秘密

Mac OSXに標準搭載されている日本語書体ヒラギノ明朝w3の見本 この見本のように、日本語書体のセットに含まれる欧文書体のことを「従属欧文」という。本来の欧文書体が「独立した」書体であるのに対して、あくまで日本語書体に「従属している」書体という意…

simpleAの会社論、ついでに書体

金城さんがsimpleAで公開した、合同会社設立の体験も踏まえた一連の「会社論」を読みながら、これは紛れもなく人生論であると感じていた。 「会社って、なんで作んの?」(2008年02月04日) 「会社って、どうやって作んの?」(2008年02月11日) 「会社って…

中古ビデオの背取りでタデウシュ・カントールに再会する

COOPに買い物に行ったら、ちょうど中古の映画VHSビデオカセットの叩き売り(百円均一)をやっていたので背取り(競取り)した。まったく期待はしていなかったが、気がついたらレジで500円払っていた。ちなみに、発売当時の定価を合計すると78,100円である。 …

万年筆から生まれた雫の書体:Amalia(2006) by Nikola Djurek

Amalia(2006) 欧文書体の今を知る Vol.6では、クロアチアのザグレブに住むニコラ・デュレク(Nikola Djurek)が設計したセリフ書体のAmalia(2006)がとりあげられている。Amalia(2006)の特徴は「万年筆のインクの溜まりを生かした、リズミカルでかわいい…

企業制定書体(Corporate Type)

用事で出かけた中心街のデパートのパン屋さんでイギリスパンに出会った。しかも焼き立てだった。迷わず買った。先日「イギリス風」書体のことを書いたときに、ふと連想してイギリスパンのことを書き留めて以来食べたいなあと思っていたのだった。人間味のあ…

各文字が作り出す余白の形をデザインする:Jenny(2005, 2006) by Kai Oetzbach and Natascha Dell

Jenny(2005, 2006) 欧文書体の今を知る Vol.5で紹介されている書体Jennyを設計したカイ・エツバッハとナターシャ・デルは、ドイツのアーヘンに住むタイポグラフィーとフォント・デザインを専門とするデザイナーである。ナターシャはイラストもこなす。彼らの…