ハチのこと


 厚い毛糸のセーターを着込んだハチ


今朝の散歩で会ったヨークシャー・テリアの老犬は、同じ所をくるくると回り続けていた。機械仕掛けの玩具のようにぎこちない動きだった。飼い主のおばあさんに尋ねた。「何歳になりますか?」「17歳よ」「えっ! 17歳! 長生きですね」「ええ。でも、目が見えないのよ」「そうでしたか、、。名前は何ですか?」「ハチよ。忠犬ハチ公のハチ」「なるほど」私は2年前に死んだ風太郎のことを少し話した。おばあさんはハチのことをもう少し話してくれた。数年前に脳腫瘍を患い一命はとりとめたものの、視力を失ったという。最近は耳も遠くなったらしい。「この子が頑張ってるから、私も頑張れるの」「分かります。ハチ、ハチ、ハチ」何度呼び掛けても同じ所をくるくると回りつづけ、こちらに顔を向けることはなかった。いい写真は撮れなかった。別れ際、おばあさんは「ありがとう」と言った。目に涙が溢れていた。