もうひとつの家族の肖像:E. J. Bellocq, Storyville Portraits


E. J. Bellocq: Storyville Portraits–Photographs from the New Orleans Red-Light District, circa 1912, asin:0870702505



The Mysterious Monsieur Belloqcq(International Center of Photography, 2005, curated by Brian Wallis)


アーネスト・ジェームズ・ベロック(Ernest James Bellocq, 1873–1949)が1912年頃にニューオーリンズ*1の紅燈街(Red-Light District)の「ストーリーヴィル」の娼館で撮影した娼婦たちのポートレイトからは写真家と彼女たちとのあいだの非常に親密な関係が伝わってくる。ベロックにとって彼女たちは家族も同然だったのでないかと感じる。『ストーリーヴィル・ポートレイト』に収められた写真はベロックの死後偶然発見された乾板から再現されたもので、生前には公開されなかった。ベロックはあくまでプライベートな写真として公開するつもりはなく、そのうち撮ったことさえ忘れてしまったのかもしれない。ベロックにとっては公開されることは不本意だったかもしれないが、こうして一冊の写真集に纏められると、ちょっと変わった素敵な家族アルバムのようにも思えてくる。


参照

*1:ラフカディオ・ハーンが「クレオールの古都」と呼び、世界の果てから「放浪の魂」を引き寄せて来たと語ったあのニューオーリンズ! ハーンがその美しい古都に次のようにささやかせたくだりは忘れられない。「わたしのもとで憩うがよい。年はとった私だが、私以上に若く美しいものに出会ったことはよもやあるまい。私は常夏の国に住み、時を分たぬ日の光の中で夢み、怪しい月影の中で眠る。くっきりとした見慣れぬ影が私の通りに斑(まだら)の模様を作っている。時に死の影がそこに落ちることもあろう。でも恐がりさえしなければ、大丈夫。私の持っている魅力は、多額の金や莫大な富のそれではない。その代わり私のもとにいれば、これまで感じたことのない希望と安心を得ることができるだろう。私がお前に上げられるものは永遠の夏とすばらしく蒼い空とかぐわしい微風と甘い香り、色鮮やかな果実の数々、それに虹よりも美しい花々なのだ。私のもとで休むがよい。私のもとを去ったら、お前はいつまでも私を思い出して悔恨にさいなまれようものを」(平川祐弘訳「ニューオーリンズの魔力」、『クレオール物語』、 講談社学術文庫、1991、pp.177–178)