India Songの消息


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1973年に出版されたマルグリット・デュラスの著作La Femme du Gange(亀井薫訳『ガンジスの女』書肆山田、2007年)の冒頭に出てくる歌「『ブルー・ムーン』。1931年のブルース」が、その前年1972年に公開された(日本では2009年にようやく初上映された)同名の映画の中では「インディア・ソング」であったという事実を、翻訳者の亀井薫さんから知らされた私は、映画のなかでは一体誰が歌っているのか、そしてそもそも映画公開の翌年に出版された著作ではなぜ「ブルームーン」に変更されたのかという素朴な疑問を抱き、亀井薫さんに質問した。それに対する回答が届いた。



亀井薫さんが送って下さった2009年に関西日仏会館(副領事館)で日本初上映された際の講演原稿のコピー。「Sur le film La Femme du Gange」。


亀井薫さんによれば、映画の中で歌っているのは「黒衣の女」や「狂人」である。そして実は歌の変更以外にも映画と著作の間には「夥しい量の異同」がある。後者に関して異同の理由は不明であり、おそらくマルグリット・デュラス(Marguerite Duras, 1914–1996)本人以外には分からないだろうということだった。なるほど、腑に落ちるところがあった。つまり、著作は映画のいわゆる「原作」ではないのだから、同名であるからといって、両者の内容に異同があっても何ら不思議なことではない。とはいえ、それでは、そもそもデュラスは同じ題名の下で、映画では何を狙い、著作では何を狙ったのかという疑問が生じる。その違いを知ることができれば、「インディア・ソング」が「ブルー・ムーン」に変更された理由の一端にも触れることができるかもしれない。そのためにも、未だ観ぬ映画を観たい。実は亀井薫さんは映画『ガンジスの女』の日本では四回目のそれが恐らく最後になる上映会を今年東京で計画しているという。楽しみである。


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