龍神守りの翁






















女夫龍神社(めおとりゅうじんじゃ)、中央区南28条西11丁目。


国道沿いに忽然と現れた小さな鎮守の杜(もり)。栗、楓、桑、木瓜(ぼけ)等が身を寄せ合うようにして何かを守っている様子が微笑ましい。好ましい。木瓜の実が目にとまる。結界を跨いで中に入ると、白髪の翁が立っていた。傍に自転車がある。小さな社(やしろ)の手前に箒と塵取りが、一仕事終えたばかりといった風に、置いてある。曰くのありそうな大きな石が目につく。屋根の一部欠けた社の模型のような石像がある。大小様々な「水」に関係するらしい石地蔵が社を取り囲むように置かれている。浄めの水跡が残るそれぞれの台座の上にはお神酒とカラフルな花が供えられていた。歩道に面した一番背の高い石地蔵には五本の「天然水」まで供えられていた。女夫龍神を拝んだ後、気になった「女夫(めおと)」の由来を翁に訊いてみたが、「爺さんの代から、とにかくこうしてる」とだけ言った。通りすがりの余所者にそれ以上説明するのは面倒に違いない。翁の気持ちを察した私は、くれぐれも失礼にならないように、そっと、ゆっくり、お地蔵さんを巡り、頭を下げ、手を合わせてから、静かに一枚ずつ撮らせていただいた。多種多様な石で囲った池のように見える手水鉢(?)と塞がれた井戸(?)の間に水道管が露出した流し台があり、手拭と如雨露が置かれていた。いつの間にかパジャマ姿の小父さんがやってきて、顔見知りなのだろう、龍神守りの翁はしゃがみこんで、パジャマの小父さんは境内に目立つ石のひとつに腰掛けて、向かい合って親しげに話し込んでいた。女夫龍神社を後にして北に向かおうとすると、隣接する「ナーシングホームなつれ」という名の真新しい建物が目に飛び込んで来た。看護・介護が必要な高齢者と身体障害者のための共同住宅である。あのパジャマ姿の小父さんはここから抜け出してきたわけだ。まるで鎮守の杜がナーシングホームなつれの庭であるかのように見えたのが不思議だった。鎮守の杜をふと振り返ると、歩道を歩いて来た若い女の人が一礼して杜の中に入っていった。女夫龍神を拝む姿が木々の間から垣間見えた。初耳の「なつれ」という名の由来も気になった。後でナーシングホームなつれのウェブサイトを調べてみたら、株式会社ネイチャーが経営しているとある。ネイチャーの英語の綴り「NATURE」をローマ字読みすると「なつれ」であることに気づいた。そういうことか、、。


蛇足ながら、私が常日頃使っている『北海道道路地図 Super Mapple1』(昭文社)には「女夫龍神」ではなく、「妖龍神」と記載されている。


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