民俗

龍神守りの翁

女夫龍神社(めおとりゅうじんじゃ)、中央区南28条西11丁目。 国道沿いに忽然と現れた小さな鎮守の杜(もり)。栗、楓、桑、木瓜(ぼけ)等が身を寄せ合うようにして何かを守っている様子が微笑ましい。好ましい。木瓜の実が目にとまる。結界を跨いで中に入…

揺れる海上、揺れる人生:転身と抵抗の記録

島の青年になったひとりの若者の転身と抵抗の記録。彼の滾る血潮が七島灘に映る。 稲垣尚友・文/大島洋・写真『海上の集落−−薩南諸島トカラ』(ナツメ社、1979年4月、asin:B000J8HXF8)。大島洋の写真はカバー写真を入れて105点。 写真・大島洋(24頁) 海…

「倭の島のモノ語り」

白い芭蕉布をガウンのように纏った裸足の老婆が、裾は風になびかせるにまかせたまま、手に握ったシオバナ(潮花)を左右に振り、水滴を飛ばしながら、島の道を行く。きれいに梳(くしけず)った白髪が肩から背中にかけて垂れている。束ねていないその髪がシ…

記憶と空白:「済州四・三」

以前、民俗的関心から、村上節太郎による済州島の海女の写真について触れたことがある。 村上節太郎(1909–1995)の昭和の写真記録(2010年05月15日) また、歴史的関心から、姜信子さんのいわゆる「済州島四・三事件」にまつわる語りに触れたことがある。 …

「道々の者」への挽歌

朝日新聞(夕刊)2010年8月23日 この死亡記事が目にとまった。「『大衆演劇の殿堂』と呼ばれる芝居小屋『嘉穂劇場』」の言葉に惹かれたのだろう。以前読んだ「道々の者への挽歌」である沖浦和光の『旅芸人のいた風景』を思い出していた。 旅芸人のいた風景―…

隼人とアイヌの邂逅

竹の民俗誌―日本文化の深層を探る (岩波新書)作者: 沖浦和光出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1991/09/20メディア: 新書購入: 3人 クリック: 7回この商品を含むブログ (14件) を見る 本書には後述するように隼人の末裔かつ竹細工師である一人の翁の北海道の…

歌姫:遊女の系譜1

『梁塵秘抄』に有名な遊女の歌がある。 遊女(あそび)の好むもの 雜芸(ざふげい) 鼓 小端舟(こはしぶね) 簦翳(おほがささ)し 艫取女(ともとりめ) 男の愛祈る百大夫 『梁塵秘抄』(380) この歌の「鼓・小端舟・簦翳・艫取女」のすべてが収められて…

記録させる記憶:宮本常一の「記憶」と「記録」

『宮本常一が撮った昭和の情景』上巻、170頁、asin:4620606391 これは宮本常一が昭和37(1962)年夏、山口県萩市見島の宇津で撮影したもの。「漁網の上でうたた寝をする男の子。海の子はこうして育つ」というキャプションが添えられている。見島とは山口県の…

佐渡の地蔵堂

佐渡へのオマージュ(2010年08月03日) 上のエントリーを書いた時、村崎修二さんが2000年の夏に佐渡の旅の途中で「無住のお寺ともお堂ともつかない建物」のお陰で、ちょっと大げさに言えば、命拾いした、その「お堂」のことが気にかかっていた。偶然とは思え…

佐渡へのオマージュ

ムクゲ(木槿, Rose of Sharon, Hibiscus syriacus) ムクゲの花の 凛と咲く 夏の日 いのちを 削って 過ぎし日を 綴れ さすらいの旅の果て 蒼穹(あおぞら)の記憶を辿り ムクゲの花の うれしい夏の日 ムクゲの花の 美しい夏の日 村崎修二「猿曵き佐渡をゆく…

風の丘

Sopyonje 1 of 13 Sopyonje 2 of 13 Sopyonje 3 of 13 Sopyonje 4 of 13 Sopyonje 5 of 13 Sopyonje 6 of 13 Sopyonje 7 of 13 Sopyonje 8 of 13 Sopyonje 9 of 13 Sopyonje 10 of 13 Sopyonje 11 of 13 Sopyonje 12 of 13 Sopyonje 13 of 13 林権沢(イムグ…

消え行く旋律に耳を澄ますジェラルド・グローマー

宮成照子編『瞽女の記憶』(桂書房、1998年) 宮成照子とジェラルド・グローマー(Gerald Groemer) 前書(『越中瞽女と母の在世ご利益』を指す)を世に出したことでたくさんの方とまた新たに出会うことができました。今度の本の中に転載を許していただいた…

反復と原郷、春駒の唄

旅芸人のフォークロア―門付芸「春駒」に日本文化の体系を読みとる (人間選書) 群馬県利根郡川場村門前に「春駒」が残っている。「村の青年団が中心になってこの春駒を伝承し、自分たちで百十一戸ある村のすべての家を門付して回っている」(7頁)という。し…

舟の家/廓舟(くるわぶね)

螢川・泥の河 (新潮文庫) 宮本輝の小説「泥の河」(1977年)に舟の家に暮らす家族が登場する。昭和30年代の民俗、風俗、特に家船(えぶね)への関心から久しぶりに読み返した。読んでいるうちに小説の力、あるいは物語る視点が気になり出して、民俗、風俗的…

The Forgotten Japanese:時間持ちのジェフリーさんによる宮本常一の『忘れられた日本人』の英訳本

The Forgotten Japanese: Encounters with Rural Life and Folklore 一年前に、 鹿児島の南九州市川辺町の土喰(つちくれ)というすごい名前の村に「変な」アメリカ人が暮らしている。…時間持ち(2009年05月30日) と紹介したジェフリー・アイリッシュさんに…

北前船とおちょろ舟

瀬戸内の民俗誌―海民史の深層をたずねて (岩波新書) 昨日書いたように、 おちょろ(2010年05月18日) 沖浦和光と五木寛之の対話集『辺界の輝き―日本文化の深層をゆく』(岩波書店、2002年)の後半では、北前船の歴史の裏側に「おちょろ」と呼ばれた遊女を乗…

おちょろ

辺界の輝き―日本文化の深層をゆく 五木 むかしは、船の上で春を売る遊女がいたでしょう。 沖浦 「おちょろ」ですね。相手の船を訪問して商売をやるんですね。(『辺界の輝き』153頁) 「おちょろ(舟)」。知らなかった。 先日、尾上太一写真集『北前船』を…

瀬川清子の旅:『海女記』(1942年)

本書は昭和17年(1942)に三國書房から女性叢書の一冊として発行された瀬川清子の処女作『海女記』である。柳田國男が「序」を寄せている。先日1970年に未来社から発行された『海女』を読みながらその文体にポエジーを感じたと書いたが、本書にはそれをさら…

家船(えぶね, Sea Gypsies or Sea Nomads)

風の王国 (新潮文庫)作者: 五木寛之出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1987/04/28メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 9回この商品を含むブログ (21件) を見る かつて五木寛之の『風の王国』を読んだ時に、その参考文献一覧を見て、これはサンカ研究書並みじゃ…

生活のポエジー

「舳倉島滞在記(能登の海女)」を含む、日本各地の海女の世界に多面的に深く光りを当てた瀬川清子(1895–1984)の『海女』(未来社、1970年)を読みながら、フォスコ・マライーニも鋭敏に感受することになる海女の世界観の核心部分、すなわち生活全体と緊密…

太陽がいっぱいで潮の匂いのするとってもいい本

海女の島―舳倉島 フォスコ・マライーニ(Fosco Maraini, 1912–2004) 沖家室島の松本昭司さんに導かれるようにして、知っていると思っていたが実は何も知らなかった「海女」の世界に触れ、私にとっての「世界」の未だに穴だらけでフレームもピントも図柄も定…

海女の「歌」

海女の群像―千葉・御宿(1931‐1964) 岩瀬禎之写真集 海女と海士 (日本民俗文化資料集成) 沖家室島の松本昭司さんが宮本常一の「解説」付きの中村由信写真集『海女』を手に入れたと知って、なぜか強く感応するものがあった。図書館で「海女」関連の書籍を漁り…

松本昭司さんが中村由信写真集『海女』を手に入れた

沖家室の松本昭司さんが中村由信(なかむらよしのぶ, 1925–1990)の稀少な写真集『海女』を手に入れたという。羨ましい。 中村由信写真集 解説/宮本常一「海女」(「鯛狸の豆日記」2010年05月10日) 中村由信の写真集はその『海女』を含めて『瀬戸うちの人…

ソローと宮本常一

asin:4875022271 しばしば「森の哲人」と呼ばれるソローは、実は「海の哲人」あるいは「海辺の哲人」でもあった。本書『コッド岬』はその証しである。*1カバーの表題の右上に小さく「海辺の生活」とある。原書には見られない余計な配慮のようにも思われるが…

女の世間

asin:400331641X, asin:4905640822 アン・キャメロン著『銅色の女の娘たち』を読んでいる時、宮本常一の『忘れられた日本人』に収められた「女の世間」の中の次のような指摘を思い出していた。この「女の世間」は「土佐源氏」の直前に置かれている。 女はま…

ニコラ・ブーヴィエが撮った昭和の日本

Nicolas Bouvier, Wall, 1956, Tokyo, Japan*1 Nicolas Bouvier, Femmes Aïnou, Hokkaïdo, Japon, 1964*2 Nicolas Bouvier, Wakkanaï, port et chantier naval, août 1965*3 宮本常一(1907–1981)が日本列島の津々浦々を歩く傍ら本格的に写真を撮り始めた昭…

骨と貝殻

まさか、また「貝がらがついた骨」に出会うとは、、。 asin:462207298X 日本という島国をその波打ち際から眺め歩き続けたスイス生まれの旅人ニコラ・ブーヴィエ(Nicolas Bouvier, 1929–1998)は1965年に地元の少年たちに案内されて網走博物館を訪れた。ブー…

あなたは日本人ではありません

asin:4894346737 そうか、森崎和江さんはそんな「旅」を続けてこられたのか、、。 もしもし日本人を自称しておいでのあなた。あなたはお気づきではないようですが、あたなは日本人ではありません。だって海の匂いがするもの。あなたの骨には貝がらがついてい…

とび立てば、空は、やみというのに

人は一生に何度「生まれる」のだろうか? asin:4894346737 森崎和江さんは子育てが終わった頃に「ふたたび旅へ」(1976年)という非常に印象的な文章を書いている。若い頃には人は二度生まれるものと感じていた、という。すなわち、人は一度は母の胎内から生…

水と血と、空と男と、

asin:4894346648 asin:4894346788 水と血とあなたはどちらにより深くぶれますか? 空と男と、あなたはどちらにより強くふるえますか? ヤマの、あなた。森崎和江「浮游霊と祖霊」(1971)、『精神史の旅 2地熱』所収、314頁 森崎和江さんに導かれて、「くら…