情報の大海を泳ぐ技術:検索をめぐって

前回復習したように、情報デザインの基本的な定義は見えない情報に見える形を与えることです。で、その形の与えかたについて「情報アーキテクチャー」の考え方もおさらいしました。ユーザビリティやインターフェースに関しては優れた実例に数多く触れ、使い手の側に立った使い勝手を緻密に想像することが必要です。この講義の主眼は「アーキテクチャー」、つまり見えない情報を材料にした「建築」の醍醐味と効用に気付くことにあります。「今日から自覚的な情報デザイナーになる」がこの講義のモットーでしたよね。「情報建築家」と言ってもいい。

情報の建築には、組織化、誘導法、特徴化、検索法の四つが考慮される必要があります。連想や発想をできるだけ妨げない、むしろ加速してくれるようなシームレスで直観的な情報への誘導法と情報の特徴化と検索法に関しても日々優れた実例を体験することが必要です。この講義では「検索」に関してやや立ち入って考える予定です。

情報建築の筆頭にあげられる組織化では体系の観点と構造の観点を区別します。構造とは、扱う情報の塊全体の青写真、設計図みたいなものです。体系化とは、そのままではばらばらな情報の群れを一定の基準、秩序の下に配置することです。主な基準には、時間、空間(位置)、カテゴリー、アルファベット(五十音)順、連続量(大小、高低、優先順位、等々)の五つがあります。

具体的には例えば、カレンダーに記録された情報は「時間」という基準、秩序の下に「体系化」されていて、それらは「リニアー(過去から未来へ向かう一直線状の)」構造を持つということです。あるいは、WWWではテキストや画像の形式や意味の基準に基づいた未曾有の体系化によって、ハイパーテキストハイパーリンクと呼ばれる前代未聞の構造化が実現されています。こういうふうに実例を見ることには、実は日々何気なく使っている情報デザインの成果(カレンダーや地図やウェブはその典型です)を、すぐれた情報建築の実例として深く見直す必要が示唆されています。

この講義は、情報建築の土台である組織化、その軸となる体系化と構造化、特に構造を決定する体系化の基準に照準を合わせて進めてきたわけでした。特に、「時間」という秩序は、究極的には「人生」であり、「世界」でもあるという視点から、かなり掘り下げて来ました。前回はとうとう「死のデザイン」まで行ったわけです。

「空間」という基準に関しては、実はすでに前回も触れたように、空間は時間から切り離して扱うことができないということが一番大切な認識でした。優れた空間デザインは必ず時間のデザインを含んでいるのでしたね。したがって、情報の体系化の一つの基準としての「空間」は、今後も時間との連動の観点から見ていきます。

さて、三つ目の「カテゴリー」に関しては、情報建築における組織化とならぶ特徴化と検索法と深く関係しています。前回、板書では「検索」にGoogleの名前を添えておきましたが、各種検索エンジンとは、実は情報デザインの優れた実例の宝庫なのです。検索できるということは、情報が上手に特徴づけられ、かつ組織化(体系化+構造化)され、かつ巧みな誘導法さえ実現されていることを意味します。

という次第で、今回(明日)は「検索」の裏側を少し探訪します。直接相手にするのはテキストや画像という見える素材なんですが、本当に相手にしたいのは見えない「意味」や「関係」なんです。膨大な量の言葉や画像の海から、どうやって目当ての言葉や画像を掬いあげてくるか。そのためには、言葉どうし、画像どうし、あるいは言葉と画像どうしが、繋がっていなければなりませんよね。そう、「リンク」です。じゃあ、そのリンクはどうやって作られるのか。技術的な興味も尽きない領域なんですが、講義では、見えない「意味」や「関係」のあたりに的を絞ってガイドします。