‽(感嘆修辞疑問符, Interrobang)、意図せざる意図をデザインする:Galaxie Polaris (2004, 2005) by Chester Jenkins


Galaxie Polaris (2004, 2005)


Galaxie Polarisの「インテロバング」


Village: http://www.vllg.com/Village/

たしかデカルトは人間の最も深いパッションは「驚き」であると語った(『情念論』)と記憶しているが、そのような驚きは衝撃的な疑問と分ちがたいように思う。「なんで‽」てなもんである。そんな深いパッションを表す記号として、疑問感嘆符「?!」と感嘆疑問符「!?」が区別されて存在し、さらに感嘆修辞疑問符(Interrobang)「‽」という記号まであるとは知らなかった。恥ずかしさを通り越して、それこそ「へー‽」である。

ニューヨークにVillageというデザイン会社を構えるチェスター夫妻(実質的には旦那のジェンキンス)設計の、その名も「Galaxie Polaris」(銀河北極星)という書体が紹介されている。そこで大変興味深かったのは、ジェンキンスがやや控えめにGalaxie Polarisの中で一番好きな文字について語る箇所である。

感嘆修辞疑問符(インテロバング)ですかね。あまり使われない標準外の符号ですが、ユニコードのインデックスを持っています。スマイル符号のように、60年代に広告マンによって感嘆修辞疑問符は創り出されました。この符号は疑問符と感嘆符を組み合わせられており、その両方の符号が同時に必要な驚きを表現するために使われます。
(中略)
Polarisがまじめで、個性が強くない書体にデザインされているわけですから、このような瑣末な記号的なものを含むのは少し不謹慎ではありました。でも、この記号こそが、ある有名なデザイナーがこの書体を選択する最終的な決め手となりました。

感嘆修辞疑問符に関してはこちらを参照のこと。

ところで、ジェンキンスの書体思想を指摘するとすれば、それは「意図せざる意図」とでもいうべきちょっとひねくれた思想である。というのは、彼がGalaxie Polarisを設計する際に念頭にあったのはGrotesque sans-serifのHelvetica(Max Miedinger, 1957)とUnivers(Adrian Frutiger, 1956)であるが、それらについては「デザインの趣旨からも意図的にモダニスティックでニュートラルな書体」であるという認識を漏らしていて、それらのルーツともいうべき半世紀も前に設計されたAkzidenz-Grotesk(1896)の意図せざるモダニズムに触れているからである。

Akzidenz-Groteskはいい意味でとてもファンキーだと思うよ。19世紀に特有のやや唐突なプロポーションと細部のデザインを持っているところが。(中略)Akzidenz-Grotesk(1896)が生まれたのは、モダニズムとほぼ同時代で、「国際様式(インターナショナルスタイル)」がモダニズムの顔になる半世紀も前なのですから。

とはいえ、ジェンキンスはもちろんAkzidenz-Groteskの形態を下敷きにしようというわけでは決してない。むしろ21世紀の書体思想の核となる理念を20世紀のモダニズムを準備したAkzidenz-Groteskの意図せざる先駆性から学ぼうとしているように思われる。そして、感嘆修辞疑問符のデザインにはジェンキンスのパッションが秘かな意図として籠められていると見るのは穿ち過ぎだろか。