日本語の組版に関して多くの編集者やデザイナーが参照してきたのが『組版原論』第2章である。なかでも「和文組版ルールと技法のベーシックス」は詳細な「ページネーション・マニュアル」になっている。その内容全体を本文中の見出しを掬い上げ番号付けした上で展望してみる。
[1]組版ルールへの基本的視座
1.1何のための組版ルールか
1.2組版フォーマットの設計は作業システムの設計に直結する
1.3版面とマージンの設定
1.4本文書体
1.5字間送りと行間送りの設定
1.6字間空け組みにおける句読点の処理
1.7字詰め––行ごとの文字数の設定
1.8インデンションへの基本的視点
1.9和欧文間の字間空きの設定
1.10欧文書体のベースラインシフト
1.11ウィドウとオーファンの忌避[2]句読点を初めとする約物の用法
2.1ぶら下げ組みとぶら下げない組み方
2.2句読点の選択
2.3数字位取りのカンマ
2.4丸バーレンの統一
2.5句読点と括弧の組み合わせ
2.6中黒と括弧類の組み合わせ
2.7数量の範囲を示すダッシュ
2.8約物のスペース取りの固定処理
2.9鍵括弧の統一
2.10丸バーレン内の文字列の大きさの変更
2.11行頭括弧の位置
2.12疑問符・感嘆符直後の空きの処理
2.12約物の用法の一貫[3]禁則処理の方法について
3.1追い込み処理と追い出し処理
3.2行頭禁則処理
3.3行頭禁則処理の基本方式
3.4行末禁則処理
3.5分離禁則処理[4]ルビの付け方
4.1総ルビとパラ・ルビ
4.2ルビ付けの一般原則
4.3モノ・ルビとグループ・ルビ
4.4ルビの大きさと行間設定
4.5QuarkXpressにおける多字数の行頭ルビ処理と行末ルビ処理
4.6見出しなどに付する振り仮名の大きさ
4.7ルビの書体
4.8グループ・ルビの組み方[5]見出し組版の基本
5.1本文組版と見出し組版
5.2見出しの行長
5.3字間詰め組みの基本
5.4本文にしか遣えぬ書体と見出しやリードにしか遣えぬ書体
5.5横組見出し組版の句読点
5.6約物の書体変更
5.7見出し組版における約物ならびに拗促音小字、音引のQ下げ
5.8活字書体の横組見出し組版における音引・連続感嘆符などの処理
5.9混植欧文書体とその大きさについて
5.10四点リーダー、六点リーダー
5.11空け組みにおける約物や拗促音小字の処理
5.12寄り引きの補正、大小文字混植の位置補正
5.13見出しの行末揃え組版
5.14仮名が”相対的に大きすぎる”書体による見出し組版
5.15罫と文字の組み合わせに伴う諸問題
5.16ボケ印字
5.17廻転印字、斜め印字
5.18DTPにおける見出し組版最後に
こうして展望すると、本づくりにおいて何がどう考慮されているのかだいたいの見当がつく。
ところで、以前日本語横組の句読点の組み合わせの選択に関して取り上げて私の個人的な判断を書いた。
そこで私は、横組であることよりも日本語であることを優先する判断と、私の主観的な美的な判断とから、あくまで「テン(、)とマル(。)」の組み合わせが良いと書いた。旧文部省の指導にルーツがあるらしい事実上標準となっているようにも思えた「カンマ・マル方式」(理系論文等の場合には「カンマ・ピリオド方式」)に抗して。
その点に関して「和文組版ルールと技法のベーシックス」では「2.2句読点の選択」と「5.5横組見出し組版の句読点」においてやや歯切れ悪く、しかしあくまで「カンマ・マル方式」が望ましい旨ルールが銘記されている。
縦組はテン(、)とマル(。)を用いるが、横組では、カンマ・ピリオド方式、カンマ・マル方式、テン・マル方式の三種類がある(われわれは原則として、横組ではカンマ・ピリオド方式かカンマ・テン方式のいずれかとしている)。新聞や雑誌などで、横組のテン・マル方式を見かけるが、組版に対する編輯者の感受性の欠如を示しているようで好ましいものではない。とりわけ、横組で数字や欧文が多く組み込まれるような場合は、カンマとピリオド、あるいはカンマとマルを用いるべきであろう。(「2.2句読点の選択」248頁)
見出し組版の句読点の選択は本文に統一する。横組の場合、われわれは原則として「カンマ、マル」もしくは「カンマ、ピリオド」を用いる。(「5.5横組見出し組版の句読点」292頁)
このように、府川氏のいう「原則」の根拠、特に「組版に対する感受性」の内実はいまひとつ明らかではない。結局「好み」でしかないとも読めてしまう。
興味深いことは、この「和文横組句読点選択問題」には「和文」と「横組」の間の、日本語と西洋語との間のスタイル上の根源的な相克が垣間見えることである。どの方式を選ぼうが附いて回る違和感はそこに淵源しているとしか思えない。
これは下手に決めつけるよりも、ルール(マニュアル)上もむしろ「オープン」にしておいた方が賢明なのではないかと思うのだが。