お腹の中から声が出ている


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先週、モニカ・ゼタールンドとビル・エヴァンスインタープレイにある種の感動を覚えたことを記した。

そして早速中古CD『WALTZ FOR DEBBY - MONICA ZETTERLUBD/BILL EVANS』(PHILIPS, 1989)を購入した。1964年8月23日ストックホルムで録音された10曲を収めたアルバムである。何回も聴いた。よかった。

このアルバムのライナーノーツで寺島靖国さんがなるほどと思わせる興味深いことを書いていた。モニカ・セッテルンドの歌の魅力は、「あたたかくかつ自然な唱法」にあるというのだ。寺島靖国さんの詳しい解説を短くまとめるとこうなる。

そのあたたかさは口先ではなく「お腹の中から声が出ている」ことに由来し、その自然さは「偽の感動」を演出する「個性の表出」に陥らずに、あくまで「歌の心を伝える」という個性を超越したヴォーカルの始源的なあり方、「歌詞の伝達行為」に忠実であることによる、と*1

私は先週YouTubeの動画でモニカが「あたたかく自然に歌う」ためにどれほど全身の筋肉と神経をフル稼働させているかを目の当たりにしていたので、特に「お腹の中から声が出ている」という寺島靖国さんの指摘に深く納得したと同時に、寺島靖国さんが声だけから「それ」を聴き取ったことに驚いていた。研ぎすまされた耳はそこまで聴き取ることができるのか。

ちなみに、「お腹の中から声が出ている」とは、三木成夫風に言えば、頭(mind)ではなく、心(heart)から声が出ているということである。

*1:ジャズ・ヴォーカルに限っても後者の指摘には異論が百出するかもしれないが、目下の私の関心ではないのでここでは棚上げしておく。