樹木の思想

前掲のアストゥリアス著『グアテマラ伝説集』(国書刊行会牛島信明訳、asin:B000J8X9UG)を慣例を破って二頁も読んでしまった。そして驚いていた。こんなことが書いてあった。

 樹木は、埋没した都市に住んでいる人々の吐く息を吸っているのだという信仰があり、それゆえ、心に悩みを持つ者は解決の糸口を求めて、恋する者はその苦悩を和らげようと、道に迷った巡礼は方角を見定めようと、そして詩人は霊感を得ようとして、木陰に佇むことが習慣として広く行われた。
 樹木はこの都市の隅々にまで妖気を漂わせ、かすかに揺れる夢の薄い皮膜にさえその影がまつわりついている。
(17頁)

私が朝の散歩で戯れに始めた「樹木の下に佇んでみる運動(プロジェクト)」にひとつの深淵なヴィジョンが与えられる。「かすかに揺れる夢の薄い皮膜」が未曾有のスクリーンとなって樹木たちの真の姿がそこに映し出される。その姿を私はいつか語れる時が来るだろうか。