ギョーカイの人ですか?

夕方、自宅にADSLから光回線に切り替える工事が入った。回線の引き込み工事を担当したオッサンがかっこよかった。私よりも少し若い、多分四十代半ばか。ボーズ頭に浅黒い精悍な顔立ち。てきぱきとした、しかも時々鼻歌を歌う余裕のある仕事ぶり。無駄口はたたかないが、いいタイミングで軽い話題を振り、こっちが仕事の邪魔にならない程度に振る話題にはひとひねりして返す機転。作業を観察するのも、彼との言葉のやりとりも楽しかった。そんな彼がパソコンをちらりと見て、「マックですね。ギョーカイの人ですか?」と聞いた。最初意味が飲み込めず、「ギョーカイ?」と聞き返した。「多いんですよ。マック使っている人が。ギョーカイには」 ああ、そうかIT業界のことか、と合点したが、ギョーカイの人であることを敢えて否定せずに、話を進めた。仕事柄当然のごとく、コンピュータやインターネットに詳しい話ぶりだった。ところが意外な話の落ちがあった。「実は、パソコン使ったことがないんです。」 受けた。彼はこれからもパソコンを使うつもりはなさそうだった。そういう割り切り方、選択の仕方が彼の生き様を象徴しているように思えた。でも、彼が担当するような物理的に回線をつなぐ技術によって、パソコンはある意味でその真価を発揮するわけだ。そのオッサンは両耳に目立たない綺麗なピアスをしていた。それがまた渋かった。ボーズにピアスの花咲か爺もありか、と軽薄にも妄想した。