写真の代わりに

ケータイをポケットに散歩に出る。気温は氷点下数度。落ち葉に霜が降り、水たまりには薄氷が張り、犬の小便の跡も凍っていた。雪はなし。ケータイカメラだと、やっぱり、即座に反応できず、写真を撮るのを諦める。デジカメG7で撮ることが体に染み付いてしまっている。自分の目の奥に、フレームのようなものができていて、辺りをきょろきょろ見ながら、そのフレームをあてがって見ているような感覚に気づいた。写真を撮るように見ている自分に気づいた。一度、それを壊さないといけないな、と歩きながら思う。上野さんちの餌台にシジュウカラが飛来した。みな同じ紺色の作業服と同じ白いヘルメットを被った七、八人が下水道工事現場で作業していた。その中に私が大学で教えている子たちと同年代の最初は女の子に見えた男の子がいた。地面に両膝をつき、白い息を吐きながら、私にはよく分からない作業に集中する横顔はまだとても幼く見えた。白いヘルメットの後ろからは茶髪が出ていた。藻岩神社境内の柳の樹にカケス(→ こんな)の番いが飛来した。立ち止まって、しばらく様子を眺める。性懲りもなくケータイカメラを向けてみた。距離がありすぎて、ズームしても、まともに撮れそうもないので、諦めた。道井さんがガレージ前で電動自転車の電灯を修理していた。「この間の台車はできましたか?」「ああ、できたよ」と笑顔でこたえてくれた。サフラン公園手前の信号を渡り終えてふと振り返ると、佐々木さんがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。軽く手を振って合図した。ちょっと間を置いて佐々木さんも手を大きく振り返してくれた。大槻さんちの庭の隅っこ、最近新しいゴミステーションがその前に建って陰になってしまった場所に、ヤグルマギクの最後の一輪を確認した。花は萎れ果てているが、鮮やかなブルーに目を洗われた。