棘のようなアポストロフィー

'Round Midnight, Thelonious Monk


セロニアス・モンクが1940年頃に作曲し、1944年に公表した“'Round Midnight”(一説には、1936年、19歳の時に “Grand Finale” の名で書かれた曲が雛形らしい)は、ジャズの曲のなかでも最多のレコーディング数を誇り、千を超えるアルバムに収録されているという。ただし、曲名はマイルス・デイビスが1957年のアルバムにも使った“'Round About Midnight”と混在しているようだ。ところで、ずっと気になっているのは、どちらにせよ、カタカナで「ラウンド」と表記すると、落ちてしまう、消えてしまう“'Round”の語頭のアポストロフィーの存在である。原題の“'Round”を見るたびに、空白に刺さった棘を連想して、曲名を口にしようとするとひっかかってしまう。そのアポストロフィーが round の意味にも通じる「ラウンド」という丸みを帯びた発音を妨げる。語頭のアポストロフィは around の a の省略とは思えない。“'Round Midnight”という曲の周りに広がる不気味な空白との短縮、痛いつながりを表わしているように思える。棘の痛みを伴った世界との関係を示すアポストロフィー。モンクの「真夜中」には棘が抜き難く深く刺さっている。、、、こんな戯言を書いてしまうのも、真夜中だからかもしれない。