厠の神様の本来


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古来「ヒトガタ」と呼ばれてきた「人形」の、縄文時代土偶から二十一世紀のフィギュアにいたる五千年の歴史が、計十八回の紀行文の体裁で編まれた『人形記』(淡交社、2009年)の第八回目は、北海道と沖縄を除く全国各地に伝わる土人形の源流である京都の伏見人形がテーマとなっている。「伏見人形の魅力は、庶民の日々の生活とともに歩み、祈られ、撫ぜられ、あるいは空気のように傍にいることで安心感をもたらしてくれるという、愛(いと)しさにある」(73頁)と述べる著者の佐々木幹郎は、その回の冒頭で、金沢の土産物屋で買った小さな一対の土人形を紹介している。

 高さ三センチほどの男女の土人形。公家の装束らしい赤や青や黄色の彩色がほどこされていて、男性は両手で笏(しゃく)を持ち、女性は扇を広げている。目元が素朴で可愛らしい。店の人は「厠(かわや)の神様です」と説明してくれた。トイレにそんな神様がいるんだ、と驚いた。金沢からその土人形を持ち帰って以来、どこに転居しても、わたしの家のトイレの隅には、この可愛らしい二体の人形が鎮座するようになった。いまも、いる。(71頁)


どんな人形なのだろう? 興味が湧いた。あいにく本書にその写真は掲載されていない。ちょっと調べてみたら、昨年ヒットした植村花菜の「トイレの神様」のおかげで、金沢では「厠の神さん」と呼ばれてきた伝統的な夫婦一対の土人形(泥人形)が大人気商品になったという。さもありなん。ただひとつ気になったことは、佐々木幹郎が語る通り、「男性は両手で笏(しゃく)を持ち、女性は扇を広げている」タイプ(例えば、鏑木商舗の商品「トイレの神様」)があるかと思えば、男女が持つ道具が逆になっているタイプ(例えば、松崎神堂店の商品「元祖 トイレの神様」)もあるということである。どちらが本来なのだろう?