QUERCUS:ラテン語銘柄のスロベニアワイン


先日、小樽の街を散策していた時、スロベニアワインのショーウィンドウが目にとまった。噂に聞いていた小さなワイン大国スロベニアのワインを見るのは初めてだった。そこはスロベニアワインの「日本総代理店」を任ずるワタショウという名の札幌に本社のある会社の支店だった。しかし、その建物は商店ではなく明らかに倉庫だったので、まさかそこでワインが買えるとは思わなかった。ところが、「小売りしてます」と書かれた貼り紙が目に入り、これは、と扉が開けっ放しの出入口の敷居を跨いで、中に入った。「ごめんください」 中は飾りっけのない棚が数列並ぶ殺風景な正しく倉庫だった。作業服の小父さんが奧から出てきた。「スロベニアワインが買えるそうですが、ちょっと見せていただけますか」「はい、どうぞ、こちらです。もう残り少ないですが」「赤は、メルローは、ありますか」「赤は、もうこれしか残っていません」そう言って小父さんが棚から取り出してくれたのは、QUERCUS(クエルクス)という銘柄の2008年物のカベルネソーヴィニヨンだった。値段は1080円。見た目から予想した値段の半値以下だった。迷わず買った。ついでに同じ銘柄、同じ値段のシャルドネも買った。二本のワインをバックパックに詰めて背負って坂の多い街の散策を続けたせいで、肩が凝った。




堅い印象のラテン語の銘柄「QUERCUS(クエルクス)」は柏や樫を意味する。英語の「OAK(オーク)」に相当する。ワタショウの公式サイトの説明には「クエルクスは樫を意味するラテン語です。樫樽で熟成される上質なワインです」とある。ただし、ワインの裏ラベルのスロベニア語、イタリア語、ドイツ語、三言語併記の説明には、この銘柄はワイナリーのある土地ブルダでよく見られるQuercus robur(「堅い楢」を意味する学名。スロベニア語ではhrastu Dobu, イタリア語ではfarnia, ドイツ語ではEiche Dob)に由来する、としか書かれていない。いわゆるヨーロッパナラ(欧州楢, Pedunculate oak)である。葡萄が育った土地に生える樹木の名前はワインの名前にふさわしいと思う。だが、どうして学名のラテン語を使ったのか、スロベニア語の方がいいのに、などと余計なことを思う。裏ラベルには北はオーストリア、西はイタリアと接するスロヴェニアの略地図も載っていて、このワインを作っている醸造会社のゴーリシュカ・ブルダはイタリアとの国境付近にあることが分かる。


実際に行ったことのない土地の実際に見たことのない樹木の生える風景を想像しながら、QUERCUS(クエルクス)を味わった。その肝心の味については、予想以上にしっかりとした味わいで、とても美味かった。樽の香りは嗅ぎ分けられなかったが、、。


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