ドキュメンタリー映画『Helvetica』(2007)、無個性の個性


映画のポスター

Helvetica [DVD] [Import]

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日本でもNTTデータなどがコーポレート・タイプ(企業の制定書体)として採用している世界で最も多く使われているといわれるサンセリフの欧文書体のHelvetica(ヘルベチカ、ヘルベティカ)をめぐるドキュメンタリー映画が昨年製作された。すでに欧米各地で上映され、今年に入って日本でも女子美術大学で試写会が行われた。知らなかった。

Helveticaは1957年スイス(スイスのことをラテン語でConfoederatio Helveticaという)で生まれ、昨年ちょうど50歳を迎えたのだった。映画の公式サイトはこちら。

映画はたんにモダンデザインを体現する書体として生まれたHelveticaを礼賛する内容ではなく、その後のポストモダンデザインにおける反Helveticaの潮流、さらに回帰の動きといった半世紀にわたるデザインの動向を著名なデザイナーへのインタビューに基づいて検証する内容になっているようである。

そもそもHelveticaが広く普及した理由は、その限りなくシンプルなデザインが「清潔さ」と「落ち着き」の印象を与えるからであり、そのような造形が生まれた背景には、スイスではドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語の四つの公用語が混在するという環境があった。つまり、どの言語の書体としても違和感の生じないシンプルさが追求されたといわれる。

そのことは四つの言語各々のタイポグラフィー間の関係そのものがデザインされたことを意味する。だからこそ、Helveticaのある意味での個性の無さが、言語の違いを超えてひとつの個性を発揮しうるのだろう。

Helveticaの人気度、愛用度についてはこちらで。

Helveticaのデザイン上の細部の特徴に関してはこちらで。

Helveticaに関する大谷秀映氏のこんな本が出ている。

The Helvetica Book ヘルベチカの本

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