昨夜から降り続いている雨で増水した豊平川の岸辺になぜか立派なナスビが一個落ちていた。土色の濁流は轟音をたて続けていた。川の声というより叫びだな。ふと思い立って、そのナスビを精霊流しの舟にみたてて川に浮かべた。思ったより速く岸から離れ、まもなく濁流に飲み込まれた。この俺は一体何を見送ったのだろう。
豊平 とよひら
豊平は豊平川を隔てて札幌と向かい合った土地であったが、昭和36年札幌市に入り、現在は豊平区である。松浦氏西蝦夷日誌は「サツポロ(川)。急流。南(東)岸をトイピラと云。茅や一棟。トイピラは土崩平の義」と書いた。松浦氏は平を崖の意に使った。tui-pira(崩れる・崖)の意。彼は樋平(といひら)とも書いた。松浦図はこの豊平川の東岸にハンケトイヒラとヘンケトイヒラを記入している。panke(川下の)とpenke(川上の)の二つの崩れ崖があったのであろう。
永田地名解は「豊平橋のやや上流の支流に崖あり、しばしば水のために潰裂せらる。よってトゥエピラと名く」と書いた。彼は他動詞の形でtuye-piraとした。(川水が)崩す・崖と解したのだろうか。
今は完全に整地された市街地で、その崖は見られないが、古くは豊平川(豊平よりの分流か?)が若干屈曲して川岸を削って小崖を作っていた処が2ヵ所あって、大水の時にはそれが崩れたのでこの名がついたのであろう。
pira ピら 【H】がけ;土がくずれて地肌のあらわれている崖。
[朝鮮語のピラ(崖)と関係があるかもしれない]