手の教え


 via MINOLTA AUTO ROKKOR-PF 55mm F1.8(1958)




気に入っている古いレンズの絞り羽根が動かなくなったため、自分で修理しようと分解したはいいけれど、あと一歩のところで元通りに組み立てることができなかった。このタイプのレンズについて、或る専門家が素人は不用意に分解してはならないと忠告している文章を読んだのは、分解した後だった。ちょっと後悔した。ああ、素人の私には無理なのか。実際、何度も諦めかけた。ゴールは見えているのに、その前にとんでもない障害物が横たわっていて、それを乗り越えることは、そもそも物理的に不可能であるとさえ思えた。頭の方はほとんど匙を投げていた。堂々巡りしているだけにも思えた。しかし、なぜか触り続けていたお陰で、だんだん部品が手に馴染んできた。すると、それまで不可能と思えた部品の連動に手応えを感じるようになった。そして、不可能と思えた噛み合わせが突如実現した。両手の中で奇跡が起こったかのようだった。半世紀余り前に、このレンズを設計し、製造した人たちの言わば手の記憶に触れたような気がした。昨夜遅くのことだった。諦めの早い頭が、手に教えられた。そういうわけで、レンズが復活した記念にカバの置き物を撮影しました。


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