ロバート・フランクの写真集『THE LINES OF MY HAND』の落書き


かなり傷んだ古書だったが、それがロバート・フランクの写真集『THE LINES OF MY HAND』には似合っていた。1972年に日本で出版された高価本ではなく、1989年にニューヨークのパンテオン・ブックスが出した廉価な改訂版の方だった。その表紙を開くと、見返しに黒のサインペンで丁寧に書かれた落書きのような文字列が目に飛び込んで来た。写真集が出版されたのと同じ年の12月9日の日付で始まる「永遠(Forever)の愛」を誓うネッドからブランシュへのメッセージだった。

                9 DEC 1989

TO BLANCHE

    Now & Forever

           Love
             Ned


ロバート・フランクは写真を撮ることで「真実(Truth)」を追求していると随所で書いている。それは、例えば、永遠の愛などありえないとする皮相な見方ではなく、永遠の愛の形を求め続けるしかないという屈折した覚悟に近いような気がする。だから、ネッドの「永遠の愛」は破綻したのではなく、ロバート・フランクの「真実」に包まれた形で私の手に、文字という線を介して、届けられたのだと思うことにした。