東へ

でも、終点までこの列車からは降りられないわ。男は東に向かう列車に乗ったつもりだったが、列車は西に向かっていた。発車時刻が迫っていたため、宿泊していたホテルで慌ててエレベーターに飛び乗った。気づくと男は列車のコンパートメントにいた。まもなく窓外の風景に違和感を覚えた。東方に砂漠はないはずだ。どうやら西行きの列車に乗り込んでしまったらしい。そこに三人の幼い娘を連れた婦人が入ってきて、男をまじまじと見て、日本の方ね、と日本語で話しかけてきた。男は誤って西行きの列車に乗ってしまったが、途中下車して東行きの列車に乗り換えるつもりであることを女に伝えた。すると「でも、終点までこの列車からは降りられないわ」という俄かには信じられない言葉を残して、女は三人の娘とともに忽然と姿を消したのだった。日本に帰る道は東方にしかない。しかも西方からは悪い噂ばかりが伝わっていた。女の言ったことが本当なら、生きて日本には帰れなくなるかもしれない。