創作
そこは鉄道の終点だった。やけに懐かしい場所だった。折り返しの列車の窓には見覚えのあるクラスメートたちの顔があった。男は列車の入り口を探してプラットフォームを駆けた。どこにも入り口はなかった。ベンチに腰掛けて読書していた黒縁眼鏡の若い女が顔…
男は温泉宿に閉じ込められていた。出口を探していた男の前には次々と趣向を凝らした浴場が現れた。一体幾つの浴場があるのか不明だった。いつの間にか、温泉宿は特急列車に変わっていた。男は車両から車両へと空席を求めて移動したが、どの車両も満席だった…
殺菌されたような白い部屋で二人の男が灰色の机を挟んで彼を交互に詰問していた。言葉を信用していない彼はなぜか懐かしい思いにとらわれていた。返事をする間も無く男たちは矢継ぎ早にトンチンカンな質問を浴びせていた。彼が動揺して思わず本音を吐くのを…
でも、終点までこの列車からは降りられないわ。男は東に向かう列車に乗ったつもりだったが、列車は西に向かっていた。発車時刻が迫っていたため、宿泊していたホテルで慌ててエレベーターに飛び乗った。気づくと男は列車のコンパートメントにいた。まもなく…
いい歳をして何をそんなに迷ってるの?違うよ、歳をとったから迷ってるのさ。えっ?若い頃は迷わなかった。迷う暇なんてなかったって言った方がいいかな。パッ、パッと一筋見えた道を突き進む連続って感じでさ。でも、歳をとるにつれていつも何本も道が見え…
明るい広場の縁にさまよい出た男の前に赤いコートを着た見覚えのある女が忽然と現れた。女は懐かしい眼差しを男に向けたまま、穏やかな口調で語りはじめた。あなたはまだ何も分かっていないようね。ここから逃げ出せると思っている。図星でしょ?でも、それ…
いったいどこで何をしてたの?愛想を尽かした顔で女は訊ねた。きちんと説明できるはずなのに、頭に浮かぶ言葉はどれも下手な言い訳じみて聞こえるような気がしたせいで男は口ごもってしまった。しょうがないわね。ローゲツアンにでも行きましょう。お腹が空…
ある学生に、「ブログやってて、何がそんなに楽しいんですか? つまんなくないっすか?」と質問されたミカミ先生、いやマサオ君は、「君ねえ、分かってないなあ」と答えたかと思うと、以下のような内容のことを一気にまくしたてた。 ブログってさ、全部自分…
シナリオ構造論 (宝文館叢書) 今マサオ君はゼミ最終回の準備というか趣味で小津映画のシナリオに深く関わったことでも知られる脚本家の野田高梧が書いた『シナリオ構造論』(1952)の「葛藤」から「危機」そして「クライマックス」にかけての劇的局面の構成…
Mario Giacomelli: L'Evocazione Dell'Ombra/Evoking Shadow (Parole Di Charta)いいなあ、マリオ・ジャコメッリ、、 マサオ君本人は仕事の合間にブログを書いていると思っていますが、ブログの合間に仕事とやらをやっている、しかもその仕事とやらがどうも…
マサオ君の庭の思想(http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20090705/p4)はお察しのとおり、散歩の思想と切り離せない。しかも両者は相補って壮大な世界観をなすというのが彼のもっぱらの口癖である。誰も、特に家族は、彼の言葉に耳を傾けようとしないが、、…
前エントリーの内容がすこぶる分かりにくいという声に応えて、もう少しだけマサオ君にその散歩の極意なるものを語ってもらった。以下はその概要である。例えば、今朝は、噂通り、彼は寝坊したために散歩という至福の時間を逃した。しかし、すでに散歩依存症…
不遜にもマサオ君は朝の散歩でめぐる町内を自分の庭であるかのごとくに振る舞っている。その態度を快く思わない住人たちがいても彼はまったく気にかける様子もない。毎朝、それが自分が植えた草や樹であるかのごとく、あるいは自分が飼っている犬猫鳥虫、、…
私は皆に愛されて、でも幼くして死んで皆に悲しまれた男の子。あなたは世の中に深い恨みを抱いたまま死んだ若い女ね。あなたが自分でもコントロールできない得体の知れない怒りは、前世のことでも考えない限り、説明がつかないわよ。そうかな。
報告が遅れましたが、某月某日、花咲か爺率いるクルミスマイル団は、実は密かに世界各地に出陣しておりました。出陣式の様子です。地球上の各地でクルミスマイルは大歓迎を受け、着実に根を下ろしつつあるという報告を受けております。こんな感じでしょうか…
気立ての良い娘が停車場に迎えに来てくれるような、ますますアジアの田舎になっていく日本のある町で、必死に何かを作ろうとか、何かを残そうとかする罪深い人々には背を向けて、明日をも知れぬ季節に寄り添う労働に明け暮れながら、仕事もなければ金もない…
20年後を想像するための参考写真。その頃には笑顔のみならず、魅力的なウィンクまで身につけている(ハズ)。 20年後には頭でっかちの生活にはおさらばして、文字通り地に足のついた芸術のような生活を送るべく、もう少し南の土地かもう少し北の土地で、宇宙…
以下はあくまでフィクションであり、実在する人物とは一切関係ありません。傲慢には二種あると思う。清々(すがすが)しい傲慢と後味の悪い傲慢。透徹した傲慢と曇り濁った傲慢。独立した傲慢と他人や組織に依存した傲慢。前者をゴーマン、後者を傲慢と書く…
オレの飼い主ということになっているマサオはもともと変だけど最近特に変だ。誰かと喋ってるような意味不明の独り言が多いんだ。散歩の最中、こっちが忙しくしてるときにも、突然「フーちゃん、フーちゃん」って声上げたりすることもあるんだぜ。びっくりし…
人生のどん底についてよく考える。そのときどん底だあ、と思った世界はちょっと視点をずらしただけで全然どん底じゃなかったりする。でも、自分の力だけでは、なかなかそのことに気づけない。振り向きさえすれば、ドアは開いていて、そこから檻の外に出られ…
火曜日の朝の散歩でよく出会う人生の先輩がいる。「もう70歳すぎてるから、犬に死なれたショックは大きくて、未だに女房は立ち直れないでいるんだよ。」そう語るFさんは、出会うたびに「ふーちゃん」と声をかけながら風太郎に駆け寄って来てはひざまずき、…
変な夢を見た。シリコンバレーは海の向こうにあるわけじゃないんだよ、と彼は言った。皆勘違いしてるんだ。何を? 夢の見方をね。え? 福岡だって、大分だって、京都だって、名古屋だって、横浜だって、八千代*1だって、札幌だって、その気にさえなれば、い…
変な旅に誘われた夢を見た。世界中の変な人に会いに行くという。会ってどうするの? と私が尋ねると、え? 分からないの? 会うだけだよ、という答えが即座に返ってきた。会うこと自体がすべてなんだ。とにかく会うこと。つながること。それ以上に大切なこと…
http://www.the-alist.org/wallpaper/wallpaper404.htmlあれは、2年前の夏のことだった。梅田さん(id:umedamochio)がサンフランシスコで面白い飛び方をする蝶(id:bookscanner)を発見したと報告した。それはどんな飛び方だろうと興味をもった私はさっそ…
「本を作った」夢を見た。「本を出す」んじゃなくて。こんな本がいつも手元にあればいいなあ、という理想の本を一から自分で作った夢を見た。そのけっこう複雑で時間のかかった過程はほとんど覚えていないけど、出来上がった本は雪のような不思議な質感を放…
朝食時の会話で、あなたには父親の影も薄いけど、母親の影はまったくないわね、と言われた。大抵の男たちは程度の差こそあれ、マザコンなのに、どうしてかしら?分かるわけがない。好きなように、精神分析してくれよ。たぶん、三、四歳のころ、一度家を出た…