人生の踊り場

吉増剛造さんの映画「まいまいず井戸(Tornade Song)------TakeII」(7分05秒)を観て以来、

私は身近な場所に、「まいまいず井戸」を、そしてそこに「竜巻く歌」をなかば無意識に探していた。なぜか「踊り場(landing)」のある階段が頭に浮かぶようになっていた。用事があってまだ冬休み中の、しかも日曜日の、人気のない大学に行った。見つけた。

私の研究室のある6号館に「まいまいず井戸」があったではないか。1階から6階まで吹き抜けの空間に螺旋状に上昇する、下降する、踊り場といえる広さのランディングのある階段は、まさしく「まいまいず井戸」だった。持ち歩いているデジタル・ビデオ・カメラを体の前方に向けたまま、私は6階から1階まで降りた。

踊り場は各階の中間にある。各フロアーが正規の場所だとすれば、踊り場は中継の場所である。正規の場所から場所へ移動するために、そこで方向を転換するための「仮の場所」。札幌大学の中にあった「まいまいず井戸」を体を左回りに旋回させ下降していきながら、私は「人生の踊り場」のことを考え始めていた。踊り場では緩くカーブを描きならが方向転換する。方向としては正反対に向かう。変化としては振り向くに等しい。踊り場で人は振り向く。来た方を振り返りつつ、そちらへそのまま逆戻りするのではなく、すこしずれた方向へ戻る。

この運動は追体験に似ている。記憶の更新、書き換えに似ている。