Yoshimasu GOZO, THE OTHER VOICE/L'ALTRA VOCE(2005)とOptima nova



大分以前に注文してあった本がやっと届いた。吉増剛造の『THE OTHER VOICE』のイタリア語版である。しかし、本文にはイタリア語のみならず、日本語、英語、ハングルの大小の活字が紙面縦に複雑に組まれている。イタリアの詩人であり映像作家でもあるマルコ・マッツィMarco Mazzi)の興味深い吉増剛造論からはじまるこの本は、しかしイタリアの読者だけを想定したものではないようだ。異言語が文字通り文字として自然に共存する希有な書物空間が見事に構成されている。その意味で真にマルチリンガルな書物である。

ところで、この本を最初一目見て驚いたのは、表紙のタイトル文字がローマン体(セリフ体)ではなくサンセリフ体、しかも見覚えのある書体だったことである。なんと、小林章氏がOptimaを改刻して設計したOptima novaが使用されているではないか。

小林章氏によれば、Optimaはドイツの書体デザイナーのヘルマン・ツアップ(Hermann Zapf, 1918-)によって「フーツラ(Futura)のようなサンセリフ体とボドニ(Bodoni)のような古典的なロ−マン体との中間の書体を開発したいという発想のもとに」制作された。そしてさらに遡れば、その着想の源はヘルマン・ツアップが1950年にフィレンツェを旅行中にたまたま立ち寄ったサンタ・クローチェで遭遇した古代ローマの碑文にあった。

しかし、以前にも書いたように、それはたんに復古趣味や折衷主義的な「中間」では決してなくて、忘れられがちな古いものとの絶えざる「対話」のなかから一見そうは見えず極自然にさえ見えるかもしれない真に新しいものを創出する終わりのない一種の闘いのひとつの「前線」を示唆する「境界的な書体」であると思う。

吉増剛造自身がOptima novaを指定したのか、それともミラノの出版社LIBRI SCHEIWILLERの編集者が選定したのかは不明だが、それは吉増剛造の詩業の絶えざる越境の運動に相応しいと感じられるし、それになによりやはりどこか古代ローマの「碑文」の面影を宿すOptima novaで組まれた頁は美しい。他の言語の書体に関する感想はいずれまた。

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ちなみに、日本語版『THE OTHER VOICE』はこちら。

The Other Voice

The Other Voice

実は去る1月18日にワタリウム美術館吉増剛造によるマルコ・マッツィの紹介イベントが開催された。知らなかった。

そこでマルコ・マッツィのSuper 8mmと16mmフィルム作品『VOYAGER - 旅人 - 』が上映された。観たかった。