The River of Memory, Gozo Yoshimasu:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、8月、229日目。


Day 229: Jonas Mekas
Friday, August 17th, 2007
4 min. 45 sec.

Gozo Yoshimasu
at work --

吉増剛造
作業中…

場所はフランスのどこかのギャラリー。木の床に展げられた薄い銅板の「巻物」。床に正座して銅板に釘を金槌で、コン、、、コン、、、と一呼吸間を置いたようなリズムで打ち付ける詩人吉増剛造の有名なパフォーマンス。インスタレーションと言っていいかもしれない。眼鏡をかけ、背中を丸め、まるで川面を覗き込んでいるかのような姿勢で、ひたすら同じリズムで釘を打ち続ける。会場の壁には、氏の写真も展示されている。会場には昨日登場したドミニク・ラッセル(Dominique Russell)ともう一人の見知らぬ男性の他には客はいないようだ。静かな、深い時間の流れそのものが演出されているように感じられる。
(2006年10月7日、奄美大島にて。撮影:三上勝生
昨年10月初めて参加した今福龍太氏主催の奄美自由大学で三日間同行した吉増剛造氏はその時にも「巻物」を持参していた。二日目の朝、宿泊していた宿の中庭のプールサイドでそれを「日干し」する吉増氏と交わした言葉が忘れられない。その「巻物」には氏がそれまで出された本の題名が刻印されていた。打ち終えたとき、その全体が一つの詩篇になる、と氏は語った。その言葉に震撼しつつ、私は、こうしてそれを見ることは、記録を再生すること、打ち付けた文字による吉増さんの人生の記録の一種のスライドショーを見るような追体験になりますね、というような内容のことを話した。氏は深く頷いていた。私はその「巻物」には人類の記憶術の歴史が再現されているとも感じていた。

メカスはアングルと距離を変えながら黙々と規則正しく打ち続ける吉増剛造の姿を撮り続ける。不図手を止めて、顔を挙げた吉増はメカスに視線を向けると同時に笑顔ですっと右手を差しだした。思わずメカスも右手を差しだす。会場に充溢していた空気が一変する「握手」の瞬間だった。「集中していたね」とメカス。吉増は無言で軽く手を振り、再び作業に没頭し始めた。

メカスが撮った「巻物」は一瞬、金色の河の流れのように見えた。驚いた。「記憶の河の流れ」という言葉が浮かんだ。