日本語になるとすべてがなぜか湿っぽくなるのはやはり風土のせいなのだろうか。翻訳本でもそうだ。私が好きなアルフォンソ・リンギスという哲学者の翻訳本は装幀にしてからが、やたらソフトなテイストに仕上げられている。違和感を覚える。本来はもっとハードでワイルドで目を背けたくなるような雰囲気さえ持っているのに、と思う。外部、他者、異文化、等々は日本語になった途端に骨抜きにされるような気がするのは私だけだろうか。差別、区別をなし崩し的に曖昧にしてしまう日本語。
旅の哲学者と異名をとり、その文体は書斎の肘掛け椅子から限りなく遠い未知の異国の風土の光や土や風の臭いを運んで来てくれる等と賞讃されることの多いアルフォンソ・リンギスの著作。しかし、そうだろうか。たとえそうだとしても、そんなことを有り難がる人間などどこにどれだけいるだろうか。多くの人間が今生きている場所で四苦八苦しているのだ。異国の異質な風土のテイストなど何ほどのことか。
下手な翻訳本などないほうがいい。中身は読めなくても、オリジナルの本の装幀が示す外部を感じることのほうが大切だ。分からないものがある。分からない人がいる。異質な文化がある。想像をはるかに超えるものがある。そういう直観によって、自分の現在に、本当の意味での「光」を当てることこそが必要なのではないか。
静かな「哲学ブーム」だという。ふざけるなと言いたい。1930年代に「知識人の終焉」が確認されたのを忘れたのか。マスコミに乗せられた哲学者もどきが恥ずかしい姿を晒しているのを見るのは悲しい。
今や「哲学」は哲学畑にはない。どこにあるか?インターネットの最先端で起こっていることのなかに、あるとすればある。なければ、哲学などない。そんな気がした今日の私はちょっと可笑しい。
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