リンギスの挑発:言葉を見、写真を読む




Wonders Seen in Forsaken Places: An Essay on the Photographs and the Process of Photography of Mark Cohen

Wonders Seen in Forsaken Places: An Essay on the Photographs and the Process of Photography of Mark Cohen


脳におけるイメージ処理と言語処理の分業体制に関係しているのかもしれないが、本を開いて右頁に写真があり、左頁に文字が並んでいると違和感がある。本書では一貫してマーク・コーエンの写真が見開きの右頁に、アルフォンソ・リンギスの文章が左頁に配されている。初老の男の笑顔の口元の写真が掲載された見開きの左頁(134頁)が唯一の例外である。ただし右頁(135頁)は白紙である。写真のみからなる写真集はさておき、例外のない規則はないとは言え、欧米の書籍ではおおむね頁全体を占める写真や図版は左、テキストは右という「組版規則」が守られている。本書では明らかにそれが意図的に破られている。読まれるべきテキストを左に配し、見られるべき写真を右側に配すことで、断片化されたリンギスのテキストを写真を見るように見て、風景を無残に寸断したようなコーエンの写真を文章を読むように読むことを読者に敢えて強いているかのようだ。言葉を見、写真を読む。本書では、見ることと読むことの間を引き裂いてしまった力に抗して、見るように読み、読むように見る失われた感覚を取り戻すことが密かに企画されている。