万年筆から生まれた雫の書体:Amalia(2006) by Nikola Djurek


Amalia(2006)

欧文書体の今を知る Vol.6では、クロアチアザグレブに住むニコラ・デュレク(Nikola Djurek)が設計したセリフ書体のAmalia(2006)がとりあげられている。

Amalia(2006)の特徴は「万年筆のインクの溜まりを生かした、リズミカルでかわいい」、「ところどころにインクの溜まったような雫の形状が入っていて、基本構造はかなりしっかりしているのだが、ソフトでかわいい雰囲気がある」と紹介されている。たしかに、なるほどという指摘である。

Amaliaの使用例。


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「アマリア」という名前は、ニコラ・デュレク自身によれば、万年筆で絵を描くのがとても上手かった彼の祖母の名前である。彼は幼い頃、おばあちゃんが万年筆の先から魔法のように紡ぎ出す美しい形に魅せられたのだろう。書体Amalia(2006)は彼自身「万年筆を使って書く練習の中から自然にできてきた」という。そしてその形態の生命は「インクの溜まり」のような「雫の形状」にあるようだ。

「Amaliaで一番気に入っている文字はどれですか?」という質問にニコラ・デュレクはこう答えている。

難しい質問ですね。私はもっと小さい細部に興味があります。例えば、左右非対称で、少し湾曲したセリフの部分がこの書体に躍動感を与えていると思います。常に遊び心にあふれた細部をつくりだす万年筆でのデザインを思わせる感じが特にそうですね。

面白い。ニコラ・デュレクの書体デザイナーとしての眼の「物差し(scale)」は、おばあちゃんの万年筆画体験も手伝って、文字単位ではなく、「もっと小さい細部」に適応しているわけだ。セリフ書体Amalia(2006)の細部には「神の手」にもひとしい「おばあちゃんの手」の記憶が宿っていると言えようか。

また技術的な観点から、彼は太さの異なる字体、特に中間の太さの字体の設計に、Erik van Bloklandが創ったSuperpolatorやTal Lemingのprepolatorといったソフトウェアを利用していると述べているが、その際でも多くの場合に最終的には「手で調整をしなければいけない」と明言している。つまり、「万年筆を操る手」のことだと思う。

ニコラ・デュレクの公式サイトはこちら。


Typonine

ニコラ・デュレクはプロの書体デザイナーになりたい人に向けて、自身そこで学んだオランダのハーグにある王立芸術院(Koninklijke Academie van Beeldende Kunsten)のType & Mediaプログラムを薦めている。「手書きの書体、石彫りの書体から近年のデジタル機器まで、幅広い分野に対応したすばらしい指導方法を確立しているから」という。

OurTypeでは、実際にAmaliaの文字組を色々と試すことができる。ちょっと確かめてみたら、万年筆のインクの雫の形を明瞭に留めているのは以下の小文字と数字である。


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ちなみに、クロアチア語をはじめ、クロアチア関連情報ならmarsaladeさんのところがいいよ。