握手の思い出に捧ぐ

南無さんが素敵な思い出を「注」にそっと記していた。

Bill Evans:彼は1980年に亡くなっていて私はその2年前の冬に金沢のコンサートで会っている。楽屋でのきわめて短い時間でしかなかったが我々の質問に根気強く静かに応える彼の姿が印象的であった。ついでに云うならば握手した手が私の倍以上もあった事を覚えている。いまとなれば素晴らしき思い出のひとつだと言える。

 部屋に籠っている(『南無の日記』2008-11-30)

 The Bill Evans Trio - Come Rain Or Come Shine (1965)
 

レヴィ = ストロースの神話分析では半音階と全音階について、「大きな間隔」と「小さな間隔」という表現も使われているが、その意味ではモノクロームは視覚的に「小さな間隔」を経験する手段であり、人間を危機や苦痛の状況に向かわせるときには、神話世界の毒や病気にあてがわれている役割に似ている。だがときには熱帯の森にかかる虹が、より美しい土器の塗り方を教えてくれるように、よりよい世界に気づかせてくれることもあるだろう。

 港千尋『レヴィ = ストロースの庭』asin:4757142021, 066頁

そういえば、今年は雨上がりによく虹を見た。しょっちゅう空を見上げていたせいかもしれない。虹は天に昇った蛇であり、毒や病の象徴である。しかしそれは死と生の間を推移する<生>の普段気づかれにくい姿をこそより強く象徴するものだと思う。

「小さな間隔」、「筒状の時の穴」から、まるでBill Evansの大きな手がにゅーっと出てきたような気がしたよ。