Just passing by...



The Sign Painter

アレン・セイは、Grandfather's Journey のカルデコット賞受賞式の挨拶のなかで、夢と現実の関係について興味深いことを語った。少なくとも彼自身にとって大切なことは、夢と現実を分けることではないという。僕らは何かを捨て、何かを選び、その結果を引き受けながら生きている。大切なことは、その背後にある意味に気づくことだ、と。

The Sign Painter は、正にそのような夢と現実の関係を主題にした物語である。

早朝、ある町に一人の若者がバスから降り立つ。腹を空かせた彼はその町で仕事を探す。ある通りで見つけた看板屋(a sign shop)に飛び込んだ若者は、そこの看板描きの男(a sign painter)に、絵の腕を見込まれ、彼の助手として働くことになる。生活は保障された。飢えなくてすむようになった。ある日男のもとに砂漠で12枚の看板を描くという謎めいた大きな注文が舞い込む。男は若者を連れて意気揚々と砂漠に向かう。

最初の看板を三日がかりでやっと終えた二人が次の看板に移動した日の夜、テントをはり、たき火で料理した豆を食べながら二人が交わす会話が意味深長である。

「金を稼ぐ気分はどうだ?」男は尋ねた。
「僕は絵描きだよ」若者は答えた。
「みんな夢はあるさ。どうしてそんなに絵が描きたいんだ?」
「好きだから」
「だが、金を稼がなくちゃいけない」
「うん」
「俺たちはいい相棒になれる。お前も飢えなくて済む」
若者は答えなかった。

(p.14)

男は夢と現実を分ける。若者は好きな絵を描き続けたいだけだと言う。一見、同じように働いていながら、二人の交わす言葉は決して噛み合ない。砂漠での謎めいた仕事を終えた二人は町に戻る。結局、若者は男に別れを告げ、ある夜、最終バスで町を去る。「通り過ぎただけ…(Just passing by...)」という言葉を残して。