散歩の終盤、十メートルほどのゆるい坂道を登り切った突き当たりが急傾斜の空き地になっていて、そこに一本の桜の樹がある。桜の花が終わった後は、しばらくは特別目立たないが、そのうちマーガレットがぽつりぽつりと咲きはじめ、今頃はほぼ一面真っ白なマーガレットの花畑になる。その桜の樹の枝に、忘れた頃に、あるモノが二つ吊り下げられる。今朝は汗だくになって息を切らしながらその坂道を登って行って、ふと顔を上げると、それらが目に飛び込んできて、一瞬、頭が混乱した。そられが胴付き長靴であると認知するのに一秒以上はかかった。体調不良のせいか暑さのせいか老化のせいか分からないが、反応が鈍っている。月に一回か二回あるだろうか。その空き地に隣接する家に暮らすGさんがその日の早朝に釣りに出かけた証拠である。息子さんと渓流釣りに行くらしい。二人の胴付き長靴には、Gさんとその息子さんの長い物語がある。私がもしもGさんの立場なら、同じことをできるだろうか、といつも思う。できないだろう、と頭の下がる思いがする。いつか、二人の笑顔の写真を撮れる日が来ることを願っている。